シルク視点
目の前で眉間に皺を寄せ、訝しい表情を顕にしているモトキ
勉強とにらめっこすること凡そ2時間半
そろそろ集中が切れて来たのか、大きく背伸びしたり身体を捻り体をほぐしている
もう一度プリントに向かう瞳は揺らがない
まるで俺が居る事なんて頭からは消え去っているような
そんな顔が
綺麗
ふっと此方を向く瞳
邪心の一つも無い透き通った眼に、思わずたじろぐ
不思議そうな顔を浮かべながらも、手元はペンを持ちプリントから離れない
心の中で呟いた一言が本音となり、宙に放り出される
それも、無意識に
疲れてんのかなぁ、なんて首を傾げながら疑念を抱いているモトキを横目に、ほっと一息つく
疲れが溜まっているであろうモトキに向かって手引きする。
大人しくついてくるモトキを確認した後歩き始める
驚いた表情を見せ、明らかに混乱している
それもそのはず、リビングで勉強していたのだが、そこに連れていこうと3階に上がったものの
俺が指さした場所は3階の窓だったから
動揺しているモトキより先に窓を開け、窓辺の柵に身を寄りかける
手を伸ばし、モトキを呼ぶ
モトキが自分の手を強く握ったことを確認し、モトキを抱き寄せ窓から飛び降りる
すぐさまドンっという足に衝撃が走るが、そこまで高さは無いので少し安心する
ぎゅうっと強く目を瞑っていた瞳をゆっくりと開ける
本当は2階の窓から降りたかったのだが
窓の位置と屋根の場所が少し遠く、通れる所も狭いのでモトキを抱えながらの移動は無理があったため3階から飛び降りることにした
一緒に死んでも良い、みたいな事言うなよ
「モトキだから」来て欲しかったんだけど。
とは、言わないでおいた
屋根の真ん中でストンと腰を下ろし、景色を眺める
少し風が吹いている事もあって心地いい
互いに話す訳でもなく、
ただ、外の景色をみつめる
遠くを見つめるモトキの表情は、柔らかくて
繊細で
隣に静かに置いている手のひらに、触れてみたい
そう願う
触れたいけど
景色を見る邪心の無い瞳に、また「混乱」の色を浮かべさせたくないから
もうちょっと、一人の彼を見ていたいから
もう一度、前を向いた
この関係で居たいから。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。