第51話

❤️🩷無人駅(後編)
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2023/04/13 08:27





淡々と話し始めたモトキ
どこか遠くを見つめて、表情は真顔のままで。















一3年前一


モトキ視点





もとき
...ただいま、
モトキ母
...











耳に残る母の舌打ち


家へ帰ればテレビに視線を向け、リビングで寝そべっている母の姿



干しっぱなしの洗濯物、食べ跡の残った食器、掃除をせずゴミの溜まった床...



モトキ母
その辺。
もとき
...はい






適当にあしらわれ、「その辺・ ・ ・」に置いてある食材に手を伸ばす




モトキ弟
にいーご飯たべたあいー!!
もとき
待ってね、今から食器洗うから...
モトキ弟
やぁだー!おなかすいたぁー!!
もとき
ごめんね、すぐ作るから...






幼稚園児の弟も所謂イヤイヤ期に突入し、


子供を煙たがる母、イヤイヤ期の弟、そして夜遅くに帰って来ては子供に決して聞かせるべきでは無い暴言を浴びせる父という


言葉には表せない程の苦痛な毎日が続いていた
























その日もいつもと同じでまた、嫌だ嫌だと駄々をこねる弟をあやしていた時だった。




















モトキ母
お前煩いんだけど

リビングでいつも通寝そべり、テレビを見ていた母が


明らかに苛立ちを見せ、此方を向いてきた












モトキ母
いっつもギャーギャー騒ぎやがって...




まだ短い弟の髪の毛を片手で握りつぶすようにして


ぐしゃっ、と持つ母




その顔は決して子供に向ける顔ではなく、...それどころか



人に向ける様な形相をしていなかった





モトキ弟
ままぁ...
モトキ母
黙れよ



既に泣きそうな弟を、容赦なく睨み付け、






もとき
っ!!









小さな頭を握る手に力を入れ、爪をくい込ませる
モトキ弟
うあぁーん!!


モトキ母
クソガキが...お前いつまで...







今度は空いていた左手を大きく振りかざし、弟の方目掛けて



腕をしならせ、ムチのように弧を描いて頬へと向かう



























ばちん、


と大きな音が部屋に響く







そして同時に走る、激しい頬の痛み



もとき
っ...
じりじりと後を引く痛さ


口の中で血の味を噛み締めながら、母を睨む











モトキ母
...何、急にキモイ事してんの
モトキ母
庇ったつもり?急に兄貴面して自己満?



もとき
...。
モトキ弟
っ、うっ...うわあぁん!!




泣きじゃくる弟の、痛かったであろう頭を優しく撫でながら


母の暴力に耐えた








それまでは弟に手を出していなかった母だったが、


その日を境に弟への暴力が増え、目に付く範囲の暴力は全て自分が庇い、弟を守った





...幼稚園児の身体には、きっと耐えられない力で殴ろうとする母に、憎悪にも似た感情を抱く日々だった

































もとき
(...なに、やってんだろう、僕)
母から殴る蹴るの暴行、父の暴言、


そして守らなゃいけない弟は、イヤイヤ期で慰めや感謝の一言も無い


...別にそんな言葉を求めている程渇いて無いはずなんだけど。




そんな日々が、1週間、1ヶ月と続いた。















もとき
...
ふと、すりっと頬を撫でてみる






一度だけ、頬に跡を負わせられたな


と思う










顔を殴られる事は殆ど無い




視える所に跡を残せば、困るのは母だから























もとき
...っ、


ぼろぼろになっていく精神に、成長していく身体


アンバランスな成長にバランスが取れず、少しでも間違えてしまえば、崩れてしまいそうな自分





ベンチに深く腰掛け、一瞬でも気を紛らわせる為に


いつもの場所に向かい、本を持っていく





現実から、目を背けたくて



























ひとつの光がそこに見えた。

柔らかくて、儚い、


暖かい光









もとき
...先客がいる
シルク
うおっ!?
もとき
...







暗く、絶望の一言が浮かんでいた自分に


明るく笑いかけてくれたのが、シルクせんせーだった




9つも上の存在


なのに全然自分と変わらないような、子供みたいな優しく明るい雰囲気



そんなシルクせんせーが、心の支えであり、唯一の友達だった













シルク
あーもう弟迎えの時間?速いなあ


もとき
...そーですね
シルク
偉いな、そんな歳で弟の面倒見て
シルク
じゃあまたな!
もとき
...うん
頭に乗せられたあったかい手のひら


じんわりと伝う体温に、前がぼやけるけどそれを悟られないように笑顔を向ける











もとき
ありがとう



唯一の友達


この人だけが、自分を労って、褒めて、自分を



見てくれたから...どんなに辛い事でも、耐えられた




































モトキ弟
にいー!だっこー
もとき
...



丁度シルクせんせーと話した帰りだった
いつもは手を繋ぐだけで満足している弟が、珍しく抱っこを求めて来た

けれど買い物の帰り、両手には大量の荷物やカバンを持っていて、到底抱ける状況では無かった






もとき
...ごめんね、兄ちゃん今いっぱい荷物持ってて
モトキ弟
やぁだ!!だっこするー!!!





横断歩道の真ん中で駄々をこね始め、次第には泣きはじめてしまった




...いつもなら、大人しく重たい荷物を持った手を下げて、弟を抱き抱えていたのかもしれない

だけど
今日は朝から母にお腹を蹴られ、父から暴言を浴びせられ、弟を宥めるだけの体力が無かった





もとき
...
モトキ弟
にいー!!だっこー!!









泣きじゃくる弟




周りからの注目もあり、仕方なく「放っておく」という選択肢を消し


振り返る
もとき
...、こっちおい...








ぶわっ、と巻き起こる強風


広げた腕をそのままにして、風が吹いた方を見る






そこには、目にも止まらぬ速さのバス

瞬く間に目の前まで迫り来るバスに、その正面に座り込んだ弟





もとき
...ッッ!


































ドン、という音が耳に残る頃には




目の前が真っ赤に染まった世界へと変わり果てていた。























シルク視点











モトキ
...弟を殺し・    ・ちゃった時、俺の「僕達 ・     ・」はぶつかったバスに乗ってどこか遠くに消えちゃったんです

しるく
...






相変わらず、どこか遠くを見つめて


淡々と言葉を紡ぐ










しるく
...っ、モトキ
モトキ
...!








なにか、言わなきゃ


そう思うのに、言葉は喉に詰まったまま出て来ようとしない





唯一思い浮かんだ「大丈夫」なんて言葉も


少しでも光になれていたかもしれない自分が彼を突き放すようで、口が裂けても言うことは出来ない

















しるく
...絶対、お前を俺が取り戻す
自然と小さな身体を抱きしめていた


だらんと下がった腕が、自分の言葉を聞いてぴくりと反応する



モトキ
...こんな事されても、何も感じられないのにですか
しるく
っ当たり前だろ
それでも






...それでも支えになりたかった、この、少年の支えに



今は、モトキ感情がいない、無人駅のような状態だとしても






いつか必ず、笑った時の楽しさも


悲しいと感じる辛さも





...大切な人といる幸せも、必ず







しるく
...絶対に
モトキ
...っ








しるく
取り戻すから...




抱き締めた身体が震え、じんわりと胸が湿った感覚を覚えながら


無人駅から必ず連れ戻す、そう胸に包まれているモトキに誓った。








主
出すの遅くなっちゃって申し訳ありません!
主
今後のおシルせんせーに期待ですね!(2回目)

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