第3話

二人きりで
6
2020/09/19 13:12
私が空いた向かいに移動しようとする。

「まこちゃん」
「どうしたの?」
「もう少しだけ、隣にいて。」
と手を繋ぐ。
「えっ。」
「ダメ?」
「ダメ…じゃないよ。」

手を繋いでることと二人きりになってドキドキする。
「久々逢えたの、嬉しかったな。」
「私も。」
「こうでもしないと逢えないんだね。」
「忙しいからしゃあないって。」
「来てくれてありがとう。」
「いいよー、面白そうだと思っただけだから。」

「ねぇ、まこちゃん。」
「どうした?」
「まこちゃん、どうしてラジオであんな風にしたの?」
「うーん、それが最適解かなと。もしも、勝ったとして、推し変するのも、付き合うって公にするのもなんか違うなって。だったら、戦う理由を言った上で、推しは変えないし、ごめんなさいしたほうがいいかなぁと思ったの。」
「そっか…僕のためだったんだね。」
「伝わってなかったのか。」
「まこちゃんのことだから、僕のことを考えてくれてはいたと思うけど。」
「うん。最近、連絡もなかったし、寂しかったから、ちょっと意地悪しちゃった。」
「もう、ごめんって!これからも今までどおりでいてくれる?」
「はい。」

「あっ、もう日付変わってるよ。そろそろ帰ろうか?」
「送ってくね。」
「いつも、ありがとう。」
「ううん、こちらこそだよ。」

すっかり慣れた様子で車に乗る彼。
後ろに乗るのもいつものことになってた。
「まこちゃん、いつものして?」
「はい。」
運転席から振り返って軽くキスする。
「さあ、帰ろっか。」
「嫌。」
「どうする?遠回りする?」
「それも嫌。」
「いつものとこに車とめる?」
「うん。」

いつもの場所。
それは、彼の家から少し離れた公園の駐車場。
人目につかないので、いつもそこに車を止めて、車の中で話してた。

いつものように、車をとめて、私が後部座席に移動する。

「まこちゃんが明日休みだったら、このまま遊びに行きたいな。」
「明日、オフ?」
「ううん、仕事あるよ。」
「じゃあ、ダメじゃん。」
「一緒にいたいなって。」
「仕事、何時から?」
「集合は朝10時。」
「どこに?」
「事務所。」
「さすがに完徹するわけにいかんやん。」
「うん。」
「あと、もうちょっとしたらおくるから。」
「…嫌や。」

「今日はいつになくわがままだね。」
「まこちゃんと一緒にいたい。」
「どうした?」
「まこちゃん、本当に僕のこと好き?」
「じゃなかったら、今、こうしてないけど。」
「ねぇ、本当に?」
「今日だって、急に呼ばれて、彼氏のためにラジオに出ましたよ?それも、ファンの子たちに逆恨みされそうな振り方しましたけど?そんなんどうでもいい人のためにする?しないよね?」
「うん。ってか、どうやって呼ばれたの?」
「LINEみた?あなたのLINE経由で音声通話したけど。」
「はぁ?」
「リーダーと初めてLINEで話しましたが。」
「そうだったの?」
「それにさ、終わって帰ってる途中に呼ばれて、わざわざ戻ってますけど?明日、朝から仕事やけど、今も一緒にいるよ?」
「うん。」

「それでも、不安?」
「不安、めちゃ不安だよ。」
「なんで?」
「まこちゃん、モテる。」
「モテません。」
「口説かれてたじゃん。」
「はぁ?あんな冗談。」
「さっきも。」
「あれはお決まりのコントやないの!」
「推しに言われたら嬉しいんやないの?」
「ただ、びっくりしたわ!本人にもチャラいとお伝えしましたが。」

「だって、可愛いもん。」
「誰も言われません。怖いとは言われますけどね。」
「仕事してる時、出会いいっぱいあるじゃん。」
「そっくり倍にして返します。」
「全然不満とか言わないもん。」
「ねぇ、私甘えるの苦手だし。不満とかも言いにくいって最初に言ったじゃん。」
「逢えなくて寂しかった?」
「うん。既読スルーしまくってたのに、何を言うの?」
「ごめんなさい。」
「忙しいんだろうことは容易に想像つくからと思って耐えてた身にもなって。」
「ほんと、ごめん。」
「でも、普通の恋愛と違って、忙しいとわかる仕事してくれてるから、まだいいんだよね。半年も経つと慣れます。」
「まこちゃんも忙しいでしょ。」
「でも、普通の社会人とは違うよね?」
「違うけど、大丈夫。ちゃんとわかる。でも、まこちゃんはスタンプ一つでもちゃんとお返事くれるもんね。」
「みんなに、じゃないよ。大好きな人、心配させたくないし。」


「僕のこと、好き?」
「うん、大好きだよ。」
「僕も大好き。」
「あーあ、本当は一緒にずっといたいのは私もだよ。」
「ほんと?」
「うん、でろでろに甘やかしたいー!」
「僕は甘えて欲しいかな。」
「えーっ?」
「おいで。」
両手広げてニコニコしてる。

どうしていいかわからなくて、フリーズしてると、
「あっ、悩んでんな?」
そう言って、腕をひっぱって抱きしめた。
頭をポンポンとしながら
「まこ、これからもずっと大好きだから。」
「えっ。」ちゃん付けじゃないのに少し驚いた。
「どうしたの?」
「ううん。」
「キス、してもいい?」
「うん。」
軽く唇を合わす。

「まこちゃんのお部屋に連れてって。」
「今日はダメ。もう夜遅いし、それにもうここまで来てんのに。」
「嫌だ、もっと一緒にいたい。久しぶりにあったんだもん。」
「ダメ、今日は帰りなよ。」

しばらくの沈黙のあと、
「ねぇ、まこ。このまま、押し倒しちゃってもいい?」
「はぁ!?」
いつもと違う彼の顔つきにドキドキする。

「まこのこと、好きだから。ねぇ、いい?」
「ここではダメ。車の中だし、公園の駐車場だし。」
「まこと繋がりたいの。」
「ダメだよ。こんなとこだと、万が一のことあったら、一緒にいられなくなるかもしれないし、嫌だよ。」
「うん…。」

「今度、うち来た時なら、いいよ。」
「えっ。」
「だから、今日は我慢してね。」
「…わがまま言ってごめんね。」
「ううん。嫌とかじゃないから。」
「うん。」

「押し倒さないから、ギュってして。」
「うん、いいよ。」
頭をもたげてくる彼を頭撫でた。
軽くハグした後、
「帰ろっか?」
「うん。」
「コンビニでおろす?」
「ううん、家の前でいい。」
「わかったよ。」

車を走らせて、彼の家の前に着く。
「じゃあね。」
「うん、またね。」


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