第2話

ラジオ番組の後、ファミレスにて
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2020/09/18 06:05
帰り道、コンビニに寄るとLINEの着信。
『まこちゃん、今、どこにいる?』
「今?コンビニにいるよ。」
『今から、ここに来て。』と位置情報が送られてきた。
ほど近くのファミレスだった。
わかったよと送って、向かった。

「着いたよ」とLINEを送ると、
『中にいるから、入ってきて。』ときた。

ファミレスに入ると、
「あっ、来た。こっちこっち。」
彼ともう一人、いるようだ。
「どうしたの?」
と言いながら、座って彼の隣を見ると…。
「あっ。」
「さっきはどうも。」
「こ、こちらこそです。」
「どうしたの?」
「ごはん二人で食べに行くことになったから。呼んだら?って言われたの。」
「俺の推しだからね。」
「あっ、ありがとうございます。」

「まこちゃん、何か食べる?」
「ううん、ドリンクバーだけでいいかな。」
「じゃあ、注文するね。」

「僕もおかわりするから持ってくるよ。いつものでいい?」
「うん、ありがとう。」

「ごめんね、少し無理にお願いしたんだ。明日、仕事だよね?大丈夫?」
「あっ、大丈夫です。今日はありがとうございました。ご迷惑じゃなかったですか?」
「全然、こちらこそありがとう、まこちゃん。」
「あっ、名前呼んでもらっちゃった。嬉しいなぁ。」

「はい、まこちゃんはいつものジンジャーエール。」
「ありがとう。」
推しの隣ではなく、こっちの隣に座る。
いたって自然に。

「忙しくない?大丈夫?」と彼が私に聞く。
その様子に推しは少しびっくりしてた。
「うん、仕事は一段落してて。」
「そっか、よかった。」
「なんなら明日半休とる。」
「じゃあ、少しは長くいられる?」
「大丈夫。」
「いつから会えなかった?」
「うーん、私も忙しかったし。1ヶ月くらい?」
「そっか、そんな会えてなかったのか。」
「拗ねて既読スルーしてたやん。」
「ごめんなさい。」
「まあ、いいよ。」

「なんか、微笑ましいし、なんなら、お前がリードするんだな。」
「そうかな?まこちゃん。」
「うん、リードするのは彼の方。」
「まこちゃんも楽しそうだね。」
「楽しいし、笑顔でいられるから。」
「でも、推しは俺なのは変わらないの?」
「…はい。多分、そう簡単には無理かな。」

「半年前って言ってたけど、出逢ったきっかけは?」
「後輩の無茶なお願いを聞いたこと。」
「後輩?」
「会社の後輩から、彼を送ってほしいって。」
「送る?」
「はい、集合時間に間に合わなくて、会場まで。」
「あっ、石川県の時?」
「そうです。」
「そのときに仲良くなって、半ば強引に付き合ってってお願いしたんだ。」
「彼が推し変しなくてもいいよって言うから。」

「ってか、石川県まで何時間かかる?そこまで送るって、車好きなの?」
「石川県まで三時間少しきるくらい。運転はまあ好きで、石川県は実家だから何回も走ってるからだよ。」
「そうそう、そういえばあの後、石川県へドライブ行けてないよね。」
「そんな約束したね。行こうね。」
「うん。」

「でも、推しはかわらないんだね。」
「うーん、推しだとプライベートでもいい写真撮れたら、見せたくなる。顔面国宝はみんなで愛でてなんぼじゃないかな?と思う。本人いる前で言うことやないけど。」
「そういうことなの?」
「うん。だから、彼を一番の推しにはできない。彼のプライベートの姿は見せたくないかな。」
「そういうことか。だから、推しは変わらないって。」
「うん。」

「たとえば、こうやってごはん食べてるとして、彼とは一緒に写真撮って、もちろんそれは出さないし出したくないけど、推しのなら推しだけ撮って『みてー!」って出したくなるかもなって。」

彼はびっくりした顔してる。
「えーっ、知らなかった。」
「言ったことなかった?」
「うん、全然。」
「だから、推しは変わらないと思うんだけど、いい?」
「いいよ。最初の約束、守ってくれてんだね。」
「うん。」

「最初の約束?」
「そうなんだ。最初に『推しは変わらなくてもいいけど、プライベートは僕だけ見てて。』って。」
「お前が言ったの?」
「うん。」
「信じられない。」
「自分でも何で言ったかわからないんだけどね。」

「あの時、恋愛ポンコツって嘘やんって思ったんよね。」
「あれは神懸かりだった!」
「自分でも何で言ったかわからないって言うの。」

「それ、騙されてるんじゃ…。」
「そうなの??騙されてんのかな?」
「騙されてるって。じゃあ、俺のところ来る?」
「行こうかな…。」
「うんうん、俺はウェルカムだよ。来る?」
「やばいやばい。推しにそんなん言われたら、行く。嬉しくて泣いちゃう。」
顔が赤くなってもうた。
「俺、割と本気だけど。」
「えーっ、本当に私でいいんですか?」
「もちろん、喜んで。」
「じゃあ、よろしくお願いします。」
と二人でニコニコしてると。

「嫌だ、冗談でも嫌だ。僕のことだけだって。」
テーブルの下で手をぎゅっと握ってくる。

「推しに言われるとね…冗談ってわかっても、コントは続けなくちゃ。」
「そうだよ。空気読んでるよね。」
「そうですか?」
「うん。それにくらべて、お前はマジやん。」
「いやいや。駆け引きもスパイスも何にもいらないよ。単純明快が一番だって。」
彼が繋いだ手を離したけど、次は指を絡めてくる。
なかなか離してはくれない。

「思ったより愛されてんだね、まこちゃん。」
「はい…照れますね…。」

「俺が言ったことも一応心に置いといて。」
「えっ?」
「こいつに負けたくないし。」
「はぁ?」
「俺、まこちゃん好みだけど。」
「いやいや、ご冗談を。」
「じゃあ、友達くらいから。」
「それなら、よろしくお願いします。」
「まこちゃん…。」
泣きそうな顔してる彼。

「まこちゃんだけは絶対に嫌だ。」
「そんなん、冗談に決まってるのに。」
「でも、嫌なんだって!」
「わかった、わかったよ。ね、まこちゃん。」
「ごめんね。」
拗ねてる彼を頭撫でて、手を繋ぐしか出来なかった。

「ちょっと、トイレ行ってくる。」
彼が席を離れた時。
「まこちゃん、連絡先教えて。」
「えっ、あれ本気だったんですか?」
「いたって本気。はい、LINE。」
「LINEなら…。」
こっそり交換した。
まぁ、他にも交換してるからいいかな。
そして、登録名を替えた。

「まこちゃん、次は何飲む?」
彼が戻ってきた。
「あっ、ぶどうジュースがいいな。おねがいしてもいい?」
「うん、待ってて。」

ジュースを取りに行ってる時。
「まこちゃん、これからどうするの?」
「車ですよね?彼、どうしますか?私が彼、送っていきましょうか?」
「じゃあ、お願いするわ。また連絡するから。」
「はい。」
「顔、赤いよ。」
「ちょっと照れます。」
「そっか。」
「意外にチャラいんですね?」
「そうかな?」
「絶対にそう!」

二人で話していると彼が戻ってくる。
ぶどうジュースを持ってきてくれた。
「ありがとうね。」
「いいよ。」
「いつもそんな感じ?」
「すごく気を遣ってくれますね。」
「そうなんだ、意外。」
「僕がやれることをやってるだけだし。」
「いつもありがとね。」
「ううん。」
「お前、大好きなんやな。」
「うん。」
「俺、そろそろ帰るけど、どうする?」
「まこちゃん、送ってくれる?」
「うん、いいよ。」
「じゃあ、二人でごゆっくり。」
手を振って別れた。

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