「最近やけに補習頑張ってるね」
先生がきれいなことに変化なない。変化したのは僕の補習を受ける態度だ。前までは先生に促されて適当に受けていたがそうもいかなくなった。ハナちゃんとの約束を破るわけにはいかない。
「そうですね。さくらんぼあげなきゃいけなくなるので」
僕はあの時のハナちゃんと同じように真剣な顔をした。
「え?」
当然の反応だ。補習を真面目に受ける理由にさくらんぼは一見全く関係のないように見える。一種の隠語のようなものだ。
「さくらんぼって言ったの?」
先生が不思議な顔をしている。
「はい。さくらんぼ上げなきゃいけなくなるって言いました」
「そう。祭り楽しんでね」
先生はどこか悲しげな声でそう言った。
「はい」
僕は与えられた課題を先生に出してその場を後にした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。