このまま時間が止まればいいと思った。
佐「…これ、」
差し出されたスマホを受け取る。
『…ありがと。』
佐「ケガしてない?」
『…うん。勝利君は?』
佐「あっ、俺?…全く(笑)。」
『そっか。ごめんね、ぶつかっちゃって。』
佐「俺でよかったけど、次からは気を付けろよ。」
『うん、気を付ける!』
佐「よし!…じゃ、俺行くわ。またな!」
『また、ね。』
私の横を通り過ぎてく勝利君。
ねぇ、私はちゃんと笑えてたかな?
あの頃のように普通に接してたかな。
勝利君を好きになってから毎日学校に行くのが楽しみで仕方なかった。
今日は話せるかな?
名前を呼んでくれるかな?
あの頃はまだ子どもだったから、勝利君の笑顔が自分に向けられることだけが幸せだった。
でも、今は苦しいんだ。
気持ちを押し殺すのが。
叶わない恋だとわかってるからこそ、余計に止められなくなる。
それなのにあなたは、
佐「…あなた!」
歩き出した私の背中に呼びかける。
そして振り向いた私に、
佐「今から遊びに行こうよ?」
『行く!』
佐「即答かよ(笑)。じゃ、行こ!」
あの頃と同じ笑顔を向ける。
あなたの背中に
〝バイバイ″
と呟いたあの日から、止まっていた時間が動き出してしまった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。