前の話
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「オマエ、シアワセ?」
ソレは私に問いた。
「幸せって何?」
私は質問の意味が分からなかった。幸せ。五回も言えばこんな簡単な語句の意味すらわからなくなってしまった。
「ナマエ」
私が呆然と空を見上げていると、ソレが口を開き、新たな言葉を発した。
「サチ......幸。佐原、幸。私の、名前」
「サチ.........オボエル。デキル」
何かもわからない。存在しているかさえも微妙なソレは微かに喜ぶような雰囲気をみせた.........気がした。
「サチ。オマエ、シアワセ?」
「さぁ、違うんじゃないかな。わかんないや」
この名前も、つけた親がいないのであれば意味の聞きようがない。
意味がわからないのであれば、この名前の存在意義が分からない。
佐原幸はそんなことばかりを考える少女であった。
「ワカラナイ、ナラ、ミツケテアゲル」
「大丈夫だよ。多分ね、幸せって今この瞬間なんだよ」
「?」
「私ね、友達いないの。両親もいない。だから誰かと話すのは久しぶりだし、、貴女は私の友達一号だから」
「トモダチ」
「友達と話すのって、楽しいんだね」
そう言うとソレはひどく感慨を受けたようで暫く会話に間が空いた。
「ずっと一緒に入れる人はいないから。貴方もでしょ?」
「オレ、ハ、シナナイ」
「......ずっと一緒にいてくれるの?」
「イ、ル。トモダチ。サチ、オレノ、トモダチ」
「友達」という言葉を繰り返すソレは、生物なのかも分からないような恐ろしさなど微塵も感じさせなかった。
それどころか、小さな子供のような危うさと、無邪気さ、「なんでも信じるような純粋さ」が滲み出ていた。
「.........約束」
「ヤクソク」
手を触れ合うことは出来ない。だから、言葉で。目で互いを視認することは出来ない。だから、言葉で。
「......サチハシアワセ?」
「幸せだよ。今は、ね」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。