もうすぐ桜の話題がテレビでも流れる頃。
今日はおかんが同席してあなたと会う日。
メンバーからは『大丈夫、伝えておいで』と背中を押して貰った。
俺はカジュアルすぎない格好で待った。
あなたおらんやん
連れてこられたのは洒落た個室のカフェ。
あなたのスキャンダルを避けたものなのか俺への配慮なのか。
俺……なわけないか
個室に案内されると俺は目を疑った。
そこにはヘアメイクもしっかり決めてるものの黒一色。
俯いている。
覚えてるわけないか……
聞いてくれてた…
俺がデビューしたのも知ってくれてた。
そう言っておかんは出て行った。
流れる時間と沈黙。
俺には背中を押してくれるメンバーがいる。
あなたの方が俺を守ってくれてた。
言葉に詰まったあなたを恐る恐る見るとポロポロ涙を流していた。
子どもの泣き方のようにしゃくりあげてるけど静かに泣いていた。
咄嗟に抱きしめてしまった…
何度も俺の名前を呼びながら泣いてるあなたは今まで溜まってた辛かったことを吐き出しているように感じた。
抱きしめて背中をさすってから数分。
もう一時間以上経ったと思うぐらい長く感じた。
あなたが俺の服を握った時
真っ赤になった目で上目遣いで見てきたあなたの頭を撫でながら
都合良く言うなって言われても仕方ない。
あなたはいつも最初に「私なんかいたら……」と言う。
もう口癖になってるから直らないと思うんけど…
それを俺が前向きにさせたい。
あなたはそのままカフェを出て行った。
何で俺は追いかけないん……
あなたの『幸せになって欲しい』の言葉がずっとリピートされて動けなかった。
ほんまにもう会えないん……?
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。