今日こそは安心して学校生活を送れる、そう信じて目を開けた。
だが、そこには本当に大丈夫なのだろうかという不安も混じる。
怠い体を無理矢理ベッドから引き剥がすようにして起き上がる。
指先の1つ1つが鉛のように重い。
それでも学校へ行かなければという意思で体を動かして、支度を済ませていく。
支度を進めていくなかで、ふと鏡で自分の顔が見えた。その顔はあまりにも無機質で無表情だった。その表情を変えたくて精一杯微笑んでみるも、機械的で気持ち悪かった。
そんな疑問を呟いて時計を見る。
そろそろ志麻くんが迎えに来る時間だ。
鞄を持ち、椅子から立ち上がる。
そしてもう一度、鏡を見る。
指で唇をなぞり、口角を無理矢理上げてみる。
しかし、上手く笑えていない自分に失望し、鏡台を後にする。
ドアを開けるのと同時に背筋をピンと伸ばし、口角を上げる。
志麻くんは今日のことについては触れないでおいてくれた。私の不安を煽るようなことはしたくないのだろうか。
いつものように小話をしていると、すぐに学校へと着いてしまった。
ごくりと唾を飲み、正門を抜ける。
自身を落ち着けるようにして胸に手をあて、撫で下ろす。ふぅっと息を吐くと、意を決するようにして口の端をキュッと結ぶ。
そして、大きく一歩を踏み出した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。