志麻くんが部屋から出る様子がない。
物思いに耽っているのだろうが、私がロッカーから出られなくて困ってしまう。昼休みの時間はまだまだあるだろうし、終了までロッカーの中に居てもいいのだけれど...なんて思ってしまう。
そうして、3分程が経過した頃、志麻くんが深い溜め息を吐いた。何かに呆れているようだ。 すると...
ガチャン
ロッカーの扉が開けられた。
いきなりのことに、情けない声が出てしまう
ロッカーの扉を開けた志麻くんがニコリと微笑む。ただその笑顔はいつもの優しいだけのものではなく、他にも感情が混ざっていた。
志麻くんの目を見られない...
いくら理由が知られたくないからといって、志麻くんに嘘を吐くのは、何か辛いものがある
理解してくれたようで安心しきった。
その時、
志麻くんはニコニコしているようだが、内心怒っているのが伝わってくる。
でも、何故だかわからなかった
...というか、危ない。
いつもいじめてくる娘たちには、敬語を強要されているから、外すのを忘れていた
微妙な違いに気付いてくれて嬉しくもあったが...
答えられない。
「気分です。」なんて言っても、志麻くんには嘘だと簡単に見破られてしまいそうな気がする
私が口ごもっていると、志麻くんが言った
その声がすごく優しくて、嘘を吐いている自分がすごく醜く感じる。それに、その声で胸が痛くて痛くて堪らなくなる。
ドンッ
すると、ロッカーを叩いた音が鳴る
その音にギュッと目を瞑る
薄目を開けて見ると、志麻くんの顔が近くにあった
頭の中がぐちゃぐちゃになる
耳まで真っ赤に染まっていくのが自分でもわかる
頭に?マークを浮かべていた次の瞬間、更に近くに志麻くんが迫ってきたかと思うと
頬に柔らかい感触を覚えた
それを理解するのには少しの時間を要した
だが...
甘く笑う志麻くんを見て、それがキスであることを頭でも身体でも理解できた
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。