後ろにいる女子たちもクスクスと笑い、抑えきれなくなったのかお腹を抱えている人もいる。
笑いながら川白さんは言った
踊り場なんて、不自然じゃないか
だってここはあの時も来たじゃないか
なんで気付かなかったんだろう...
不思議と諦めがついた。
なんでだろう。
「志麻くんに言ってから来ればよかった」なんて後悔だけが私を包んでいく。
まだ手をあげられていないが、その気迫に怯んで怖くなる。足がすくむ。
いつもよりも怖い。恐怖で空間が歪む。
怖い。
「もうすぐ手をあげられるんじゃないだろうか」なんて考えて更に恐怖が増す。
頭がグルグルする。
ギシリと川白さんが歯ぎしりする。
その顔は憎悪にまみれていた。
その言葉に涙が溢れた。
知っていたこと・・・
気付きたくなかったこと・・・
私は生きてる意味なんてない
息が荒くなる。呼吸が上手くできない。
前回志麻くんの家で泣いてしまった時とは比べ物にならかいくらい苦しい。
やめて・・・
お願いだから・・・!
思うように声が出せない。
どうしよう....
けれど、志麻くんが来たことで安心できた。
足の力が抜けて、その場に座り込む。
志麻くんの目が鋭くなる。
必死に答える川白さんを志麻くんはキッと睨みつけた。
すると志麻くんはポケットからスマホを取り出して、なにかを操作する。
すると、
低く、くぐもった声で志麻くんが問う。
川白さんが口ごもっていると
いつもの優しい笑みを浮かべて志麻くんが私の前に膝間付いた。
指で私の涙を拭うと、「行こ」と言って手を差し伸べてきた。
私は少しだけ朦朧とする頭で返事をして、しっかりと手を握った。
そう吐き捨てると、志麻くんは私の手をひいて足早にその場を去って行く。
ふと後ろを振りかえると、唖然としたままの川白さんたちが立っていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!