嫌だ嫌だ。見たくなかった。
俺は急いで楽屋に戻る。
ずっと仲良くして、頼りにしていた監督が他のグループのことを笑いながらボロクソに罵るところを見てしまった。
それだけならまだいい。その直前にそのグループと仲良さそうに話しているところを見ていたから、その温度差に胸が締め付けられるような恐怖心を感じてしまった。
頭をブンブンと振ってまた急いで歩く。
あの人の笑顔が今は怖い。
全部、表だけの笑顔、優しさだったんだ。
そう思うと、通りすがりに笑顔で話している人が全部、薄っぺらく見えてきた。
勢いよく扉を開いて楽屋に入る。
笑顔で俺を迎えたソンファ。
わかってる。わかってるのに。
この笑顔はどっちなんだろう。反射的に疑ってしまった。
周りのメンバーの笑顔も、今は怖い。
ソンファには優しさしかないとわかっていても、怖くて動悸が止まらなかった。
音楽番組だが、撮影した後で良かった。
今は、自分に向けられる笑顔が怖い。
1度人を疑い始めたら、もう止まらない。
優しい言葉にも「本当は?」と言いたくなってしまう。
息苦しい。
デビューしてもう4年。もし自分がいない所であんなふうにメンバーが俺の事を笑っていたら。
想像するだけで耐えられない。
その優しさが、怖い。
ソンファの声で、血の気がサッと引く。
ユノ、ソンファ、みんな
俺の事嫌いになっちゃった。
もう、視線に耐えられなくて、膝から崩れ落ちる。
蹲りながら、額を床につけながら必死に懇願した。
その時、ふわっと嗅ぎなれた香りが俺を包んだ。
まだ怖い。怖いけど、その香りは安心出来ると体が覚えていた。
だんだん、色々な香りが混ざって、
いつもの円陣と同じ空気になった。
みんなに抱きしめられながら、僕は泣きじゃくった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。