なんとなく、気にしていたこと。
本当になんとなく。
僕をきっかけにこのグループのことが好きになってくれても、僕のことを好きなままでいてくれる人が少ない。
ファンがいないわけじゃない。
だから本当になんとなく思っていただけだった。
でも、どうしてだろうと考えた時、気づいてしまった。
1人、誰もいない部屋で声に出してみると、何か心の隅の小さな何かがパキッと折れた。
周りのメンバーの事は大好きだ。
自分がここまで大好きなんだから、それにはきっと彼らに魅力があるってこと。
そりゃ、みんな好きになるさ。
だけど、自分のことは仲間ほど好きになれない。
みんなそうなのかもしれないけれど、自分の魅力なんて1ミリもわからない。
グシャッとした気持ちになった。
きっと、これは家族とも言える彼らに感じては行けない気持ち。
嫉妬。
一生封印しておこう。そう思っても、1度思ってしまえばどうしようもなくなってきた。
始まると止められないこの気持ち。
「自分ってなんでこんなに魅力がないんだろう。」
しかしどうだ、今現在、こんなふうに地獄のような思考を巡らせるメンバーはきっと僕だけだ。
どうか、それが辛いものでもなんでもいいから僕だけの、このグループの唯一無二になれ。
暗い気持ちに任せて、僕は部屋で手首を切った。
🐶side
たまたま、ご飯のメニューを聞きに来た時だった。
衝撃的なその現場を見てしまったのは。
カッターを片手に握ったまま、血だらけで倒れているサナが居た。
足が重い。
早く行かなければいけないことなんて誰よりもわかっているのに、体がスローモーションにでもなったかのように動かない。
ようやく動いた口で、1番近しい彼の名前を呼んだ。
ドタドタと音がして、ミンギが視界に映る。
僕よりもパニックを起こしたミンギは、僕の倍の速さでサナを抱きしめた。
ようやくサナの元へたどり着いた僕は、直ぐにタオルを手首に押付け、止血した。
ミンギが必死にサナを抱きしめたり揺すったりしている。
その後はよく覚えていない。2人で「救急車!!」と叫び会い、結局どっちが呼んだかも覚えていないくらい焦っていた。
救急隊の人と目が合った時、2人とも力が抜けて気絶したらしく、目を覚ますと病院にいた。
そして、本題はここからだった。
サナは、どうしてあんなことをしたのか。
気を失っただけの僕は、今は簡易的なベッドにいる。
医者の声がカーテン越しに聞こえてくるが、「自殺未遂」のワードが飛び交い、その度に心臓が早くなっていくのを感じていた。
そんなわけが無い。
今まで普通だったじゃないか。
突発的な?
もしそうだとしたらどれだけ辛いことがあったのか。
居てもたってもいれなくなって、僕はベッドを飛び出した。
病室を開けると、暗い顔をしたサナが居た。
包帯が巻かれた手首が痛々しい。
すると、サナは無理に笑う。
そして言った。
たまらず逸らしていた目を合わせるが、サナは笑ったままだった。
感情が、抑えられなかった。
思いっきり、言った。
勢いに任せて。
ハッとして顔を上げると、サナは泣きながら僕を見ていた。
サナはまた泣きながら、俯いた。
僕はそっと寄り添っていた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。