第60話

⛰ 自傷行為
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2023/07/22 14:47
なんとなく、気にしていたこと。

本当になんとなく。



僕をきっかけにこのグループのことが好きになってくれても、僕のことを好きなままでいてくれる人が少ない。



ファンがいないわけじゃない。
だから本当になんとなく思っていただけだった。



でも、どうしてだろうと考えた時、気づいてしまった。
僕には、留まるほどの魅力がないってことか。
1人、誰もいない部屋で声に出してみると、何か心の隅の小さな何かがパキッと折れた。
周りのメンバーの事は大好きだ。
自分がここまで大好きなんだから、それにはきっと彼らに魅力があるってこと。

そりゃ、みんな好きになるさ。

だけど、自分のことは仲間ほど好きになれない。
みんなそうなのかもしれないけれど、自分の魅力なんて1ミリもわからない。


グシャッとした気持ちになった。
きっと、これは家族とも言える彼らに感じては行けない気持ち。
嫉妬。

一生封印しておこう。そう思っても、1度思ってしまえばどうしようもなくなってきた。


始まると止められないこの気持ち。
「自分ってなんでこんなに魅力がないんだろう。」



しかしどうだ、今現在、こんなふうに地獄のような思考を巡らせるメンバーはきっと僕だけだ。

どうか、それが辛いものでもなんでもいいから僕だけの、このグループの唯一無二になれ。



暗い気持ちに任せて、僕は部屋で手首を切った。






🐶side

たまたま、ご飯のメニューを聞きに来た時だった。
衝撃的なその現場を見てしまったのは。
🐶
な、何…?どういう…こと??
カッターを片手に握ったまま、血だらけで倒れているサナが居た。



足が重い。

早く行かなければいけないことなんて誰よりもわかっているのに、体がスローモーションにでもなったかのように動かない。
🐶
ミンギぃ!!
ようやく動いた口で、1番近しい彼の名前を呼んだ。

ドタドタと音がして、ミンギが視界に映る。
🐤
なんっ…?え!?
さ、サナ!!
僕よりもパニックを起こしたミンギは、僕の倍の速さでサナを抱きしめた。
🐤
サナ!!しっかりしろ!!
起きろ!!!
ようやくサナの元へたどり着いた僕は、直ぐにタオルを手首に押付け、止血した。

ミンギが必死にサナを抱きしめたり揺すったりしている。




その後はよく覚えていない。2人で「救急車!!」と叫び会い、結局どっちが呼んだかも覚えていないくらい焦っていた。

救急隊の人と目が合った時、2人とも力が抜けて気絶したらしく、目を覚ますと病院にいた。





そして、本題はここからだった。

サナは、どうしてあんなことをしたのか。
気を失っただけの僕は、今は簡易的なベッドにいる。
医者の声がカーテン越しに聞こえてくるが、「自殺未遂」のワードが飛び交い、その度に心臓が早くなっていくのを感じていた。

そんなわけが無い。
今まで普通だったじゃないか。

突発的な?
もしそうだとしたらどれだけ辛いことがあったのか。



居てもたってもいれなくなって、僕はベッドを飛び出した。




🐶
サナ!!
病室を開けると、暗い顔をしたサナが居た。

包帯が巻かれた手首が痛々しい。
🐶
サナ…なんでこんな…
すると、サナは無理に笑う。
そして言った。
これで、僕、特別?
🐶
…へ?
僕、特別になれた?
🐶
どういうこと…
僕にしかない傷だよね…?
🐶
変なこと言わないでよ…
サナはこの世でお前だけだよ。
僕を好きなままでいてくれる人、いるかな?
🐶
そんなことしなくたって沢山いるよ…!
ユノ優しいもん、説得力ない。
たまらず逸らしていた目を合わせるが、サナは笑ったままだった。
🐶
優しくない。
優しいよ。
感情が、抑えられなかった。
🐶
こっちは怒ってるんだ!!
変なこと気にして、変なことするな!!
へ、変なこと…?
🐶
そのままのお前が好きな人間がどれだけいると思ってるんだよ!
……
🐶
僕含めてだよ!!
サナが変になったら嫌だ!!
思いっきり、言った。

勢いに任せて。


ハッとして顔を上げると、サナは泣きながら僕を見ていた。
僕、誰かの1番になりたかったの。
みんな僕のことなんて…
🐶
そんなことない。お前に助けられたやつが何人いると思ってるんだ。
僕のこと、好き?
🐶
当たり前。
変わらないお前で居てよ。
サナはまた泣きながら、俯いた。

僕はそっと寄り添っていた。

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