…別に休むほど辛くない。
でも、目が回って仕方がない。
気持ち悪くもないし、頭も痛くない。
ただ、視界が変だ。
動けないわけじゃないし、たったそれだけの事。
誰かに言うと、変に大事になってしまうのは明らかだったから、何も言わずにリハーサルの舞台へ立った。
明らかに、パフォーマンスが上手くいかない。
平衡感覚がおかしくなっているのかもしれない。
いつの間にか地面と垂直に立てていないと感じる時もあった。
でも、ここまで来たらやるしかない。
俺はそのまま本番のステージに向かった。
ステージ最初は必死に食らいついていたが、目眩が加速し、急に気持ち悪くなってきた。
貯めていた分、一気に血の気が引いて、ターンなんてしたもんならぐえっと喉が鳴る。
ラップパートがこれだけ怖くなったことなんて無い。
いざ来たパート。
声を出そうとすると、一気に吐き気が襲いかかってくる。
被せの音源に任せて、必死に俯きながらパフォーマンスをした。
トントン
後ろから、客席に見えない角度で、誰かが俺の背中を叩いた。
ユノの声。
そうだ、頑張れ。
自分に言い聞かせながら最後まで走り抜けた。
拍手が聞こえ、暗転。
自分がどうやってたっているのかもわからなくなって、崩れ落ちるのを、誰かが抱えてくれた。
何も見えないし、力が全くと言えるほど入らない。
その誰かに引きずられるように、ステージからはけた。
🐶 side
舞台袖に寝かせたミンギは、目をつぶったまま何も反応しない。
呼吸で胸が上下するくらいで、どれだけ声をかけても何の返事もない。
どっと恐怖が押し寄せた。
ぎゅっと手を握り、祈るように声をかけた。
なにか、声にもならない音が聞こえた。
その後、ゆっくり目を覚ましたミンギは、少し笑った。
両手を上にあげて子供のようにせがむミンギはなんだか可愛くて、僕が起こしてやる。
僕とソンファヒョンで、肩を支えながら、
ゆっくり楽屋に戻った。
ソファで寝ていると、ミンギもだんだん良くなってきて、退勤時間にはたって歩けるようになっていた。
不安だったか、まあ良しとしよう。
だけど、言わなすぎるミンギには、気をつけていかないとなとも少しだけ思った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!