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第4話

微糖コーヒー
目が覚めると薄暗い場所にいた

とても長く寝ていた気がする

いつもの部屋じゃない。ここは、どこ?

今私がいるのはベットの上で、両サイドにはカーテンがある

病院、だろうか。右の

少し窓が空いているのだろうか

右側のカーテンが風でなびく

空は薄く、やわらかい水色だった

沈みかけの三日月が空に溶けていくように色素を失っていく

これが「春はあけぼの」か

春じゃないけど

そんなことを考えているうちに少しずつ目が覚めていくような気がした

上半身を起こそうとすると右足に重みを感じた

試しに動かそうとしても、何かに固定されている

布団をめくった

私の右足には

ギプスが巻かれていた







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退院して3ヶ月

私の右足は日常生活に支障がない程度には治っていた

地獄のリハビリ生活も終わり

誰もが私が骨折してたことを過去のことだと思う頃だろう

骨折した原因は事故

横断歩道を渡っている時にブレーキの効かなくなった車が突っ込んできたらしい

あまり覚えてないけど

私は右足の骨折だけの’’軽傷’’で済んだらしい

「軽傷」その言葉は誰にとって軽いという意味なんだろう

私にとってこの傷は重傷だ

8歳の時にスイミングスクールに通い始めた

それから大会にもでるようになって

中学も高校も中学も高校も水泳部に所属していた

今月の大会で私は優勝して、有名大学の推薦を貰うはずだった

オリンピックだって目指せると言われていた

そして今、私は今までのように泳げない

後遺症が残ったのだ

泳ぐこと自体はできるが、25m泳ぐ程の体力は無い

体力復帰は難しく、戻っても1年はかかるだろう、と

推薦が貰うことも、大会に出ることも叶わなかった

みんな、骨折で済んで良かったねと口を揃えて言う

私が大会に出られなくなったと言うと

残念だね。今回はしょうがないよ、と言う

しょうがない?私にはこの大会が人生の分岐点

何も私の辛さを知らないでさ、

言わないでよそんなこと

私には水泳しかできることがなくて

泳ぐことが生きがいで

オリンピックだって目指せるって言って貰えてて

私は、私は…………





そんなことを考えながら泣いていると夜は明けていた

私は


死ぬことにした


もう私の人生がこれ以上続いても意味は無いし

こんな私を、誰も求めない

私に何も望むこともない

私は遺書を書いて、制服を着て、学校へ向かった

明け方、周りには誰も居ない

風はひんやりとしていて

月も、病院で見たときと同じ白色

匂いはなくて

音も、木の葉が揺れる音しかしない

この世に私1人しか居ないようで

今なら、死ねる。そう何故か思った

校門をよじ登って中に入った

学校にも誰もいなさそうだ

私の学校は校門から校舎までが長く、坂になっている

坂には桜の木が植えてある

並木坂高校だなんて、初代校長は単純すぎる

坂を登りきると4階建ての校舎が見えてくる

職員室の鍵をヘアピンで開けて屋上の扉の鍵を手に入れる

屋上は普段出入りできないから行くのは初めて

一段、一段。階段を上って死へと、近づいてく

こうやって考えてごとするのも久しぶりだ

足が少し痛むけど関係ない

今ならなんでもできる気がするんだ

一段飛ばしで駆け上がって

踊り場で少し休憩して

それを繰り返して屋上まで着いた

ドアを開ける

風が吹き込む

さっきよりも暖かくて、だけど暑すぎなくて、だけど少し冷たい風

屋上の景色は大したことなかった

4階から見える景色が少し開放感があるだけで

ただの景色だった

針金でできた柵に手をかける

ここを登って、落ちれば終わるんだ

やっと終われる

この世から消えられる

足元に遺書を置いて

柵を、

「ガチャ」

扉が開く音がした

振り返ると寝癖のついたボサボサの髪にジャージ姿の顧問の涼風がいた

「は?」

こっちが「は?」って言いたいわ

涼風先生は水泳部顧問で体育教師

専属コーチがいたので大して教わったことはない

大会ではマネージャーの役目をしていてお世話になった

「なんで、先生がここに……」

「作業してたらトイレで寝落ちしてな」

「変なの」

私がなぜ居るのか聞かれると思ったが何も言わなかった

先生はタバコにライターで火をつける

細い灰色の煙は風に流されながら上がっていく

ふぅ…っと息を吐くとゆっくりと顔だけをこちらに向けてくる

「お前、死ぬなよ」

「…は?」

この人の発言は突然すぎる。図星だけど

「なんですか、いきなり」

「誰も居ない学校の屋上にわざわざ鍵盗んでまですることって自殺しかねぇだろ」

「……」

「それに、左手に持ってるその手紙だって」

何も言い返すことはできなかった

「……先生は、私が死ぬことを止めるんですか」

「………」

顎髭をジョリジョリと触りながら返答を考えている

「どうでもいいな、そんなの」

「怪我さえしなければ、選手を続けられたら、先生もそう言うんですか」

私は途端に大声で言い返してた

選手じゃないから止めなかった、その言葉に苛立った

この人だって、きっと

「そんなこたぁ関係ない。だけど、今は死ぬな」

「…………は?」

何言ってんのこの人は?

何もわからない

「今死なれたら、不自然にこの場にいた俺が疑われるだろう」

「自分の地位を守るためなら生徒はどうなってもいいんですか」

「ああ、どうなってもいい」

「それでも、教師ですか」

「教師だ。お前が死のうとしてるんだから俺に止める権利はねぇよ」

「そうですよね。水泳のできない私に価値はないですよね」

「ああ、価値はない」

「じゃあ…」

「じゃあ?」

「今すぐ帰ってください!私の邪魔しないでください!」

「うるせぇよ。俺今起きたばっかなの知ってるだろ」

「……早く。今日死にたいんです」

「はぁ…」

涼風はため息をつく

「お前は何か勘違いしてる」

「………」

「お前に最初から価値なんてねぇよ」

「は?」

「だから、お前は水泳ができてもできなくても価値なんてねぇの」

「どういうこと?」

「こいつは死ぬべきとか、こいつはどうとか、そう言うことばっか言うがな、人間の価値なんて平等だ」

「平等ならみんな価値があるとかそういう…」

「じゃあお前は、何があっても一生価値のある人間か?どこかで欠けたりしないか?」

「……」

「最初から平等なら誰にも価値なんてない」

なんとなくわかるかも知れない

納得まではいかないけれど

「だからお前が死んでも生きてもどうでもいい」

「じゃあ、今、」

「だけど、今は死ぬな」

「……」

「今月は大会もあるからダメだ」

「私は出れないからどうでもい、」

「お前が居なくても他の奴が本気で練習してんだ」

「自殺で休校になったら出る出ないの問題じゃなくなる」

「……」

「今月だけは生きろ」

……………

生きろ、か

なんでこんな軽々しく言うんだよ

言ってる言葉は重いのに、とても軽々しく言う

先生は外に出ていく

今のうちに、なんて思っても足に力が入らない

戻ってきた

「ほれ」

ペットボトルを投げられる

「微糖だからお前でも飲めるだろ」

ペットボトルのフィルムには微糖コーヒーとかいてある

校内の自販機に売ってるコーヒー

一晩中置いてあったのかぬるい

蓋を開けて口をつける

ラテよりも苦くて、ブラックよりも甘い

甘いけど、苦い

苦いけど、甘い

苦くて、甘くて、苦くて

甘くて、

甘くて、

苦くて

あれ、なんで

なんで、泣いてんの

なんで、

なんで

あぁ、私

死にたくないんだ

弱っちいな私

弱っちいよ

さっきまで、数分前まで、死にたがってのに

先生に言われて怖気付いちゃうんだ

あーあ

あぁ……あ

……




それから何も考えられなくなって泣きじゃくった

先生は相変わらず煙草を吸っている

どれくらい時間がたったかわからない

少し落ち着いて、涙も収まった

生きろ、それが先生にとっての得になるための言葉かもしれないけど、

確かに私は少し、いやかなり救われた気がする

「ありがとう」

小さく呟いた

「コーヒー、出世払いな。10倍で」

コーヒーくれてありがとうなんて言ってない

だけどその素っ気なさが心に響いてるんだと思う

甘くて苦い、このコーヒー

お返しします。出世払いで
〜〜〜お知らせ〜〜〜

×××と表記していた高校の名前を並木坂高校という名前にしました

次のチャプターに人物相関図載せる予定なので参考にしてください🙏💦

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