“僕を呼ぶ声が可愛くて
キミの薄紅色の唇も、屈託なく笑う笑顔も可愛くて”
登校時イヤホンを耳にし、電車の中でFUYUの曲を聴く。今聞いているのは昨日出された新曲『キミが好きすぎてたまらない』だ。
“キミへの思いは
好きだけでは足りなくて”
私と同じ気持ちで共感しかない。
“キミへの思いは
苦くて少し甘い”
何かが潰れたような可愛げのまったくない声が出てしまう。
イヤホンをゆっくり外し、彼女の方に顔を向けた。
彼女の名前は平井里桜。私の親友である。
忘れていたかのように私に挨拶をする里桜に笑いを漏らした。
里桜は私をさーやと呼ぶ。『紗夜』だから『さーや』。
そう言った私の手にあるイヤホンから微かに音が漏れていた。
“どんなキミでもいい
キミが好きすぎてたまらない”
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!