__朝日side__
ん………………、朝、か………
…下に降りると、先に彼奴が起きていた。それが何故だか違和感に思えたが、そんな事ばかり気にしていられなかった
……は?
そう云って、彼奴は行ってしまった
凄く、胸が痛い
《一緒に居たい》
…え?
《離れたくない》
何、これ
《忘れたくない》
此れは、私の…
記憶の、欠片?それとも…悲鳴?
………どっちにしろ、欠片でも悲鳴でも、意味はない
思い出さなければ、絶対に思い出せなければ。
彼奴との思い出全部、思い出さなければ。
彼奴との約束も、絶対、絶対……思い出さなければ。
__中原side__
………すげぇ、寂しそうな顔してたな。
やっぱり記憶が無くても朝日は朝日、か…………。
……仕事に集中しよう、其れが一番だ。
この日から、俺と朝日が顔を合わせる日はめっきり減ってしまった。
俺は仕事に没頭し、朝早くから夜遅くまで仕事をするようになり、朝日は当然、就寝してしまっている。
くそっ…、これじゃあ、俺が朝日を避けてるみてぇじゃねぇか…
……否、実際…、そうなのかもしれない。
記憶の無くなった彼奴に…合わせる顔がねぇのかもしれねぇ。
…俺は、俺が思ってる以上に、弱ェ奴なのかもしんねェなァ…
__朝日side__
矢張り、あたしでは駄目なのかもしれない。
記憶の無いあたしじゃあ、彼奴を慰められない。
記憶の無いあたしじゃあ、彼奴を抱き締めたりできない。
あたしは………
────────────────────無力だ
私部屋でポツリと残るのは虚無と哀愁。
……………………………………
どうして、
どうして涙が、溢れて止まないのだろう。
辛い、苦しい。
忘れた事で、何かを失った。所謂喪失感というものだ。
そんな感情と、胸に空いた穴を埋めようとするあまり、彼奴を求めてる様な気がしてならねぇ……。
私は愚図だ
愚図でノロマで、最低で最悪。
そして、裏切り者。
ガチャッ
玄関の扉の開く音がする。
ヤバい、泣いてる所なんて誰にも見せたく無ェ…!
彼奴なら尚更だ。
駄目だ、止まらない。止まってくれない。
止まれ、止まれよ。
誰かがこの部屋に向かってる?
なら鍵を閉めれば良い、それなら、誰も入ってこない。
…カチャ
ああ、閉めてしまった。
これじゃああたしが、避けてるみてぇじゃねぇか
ああ、もどかしい。
もどかしくてもどかしくて仕方がない
コンコン
扉の向こうのノックの音に耳を塞ぐ。
………しかし、二度目のノックは鳴らなかった。
愛想、尽かされた?
其れだけは、どうしても嫌だ。
嫌だ……。
記憶さえあれば、記憶さえあれば…。
《記憶さえ、あれば────────────。》
……寝てる、のか。
この頃帰り遅かったもんな…
………お疲れ様くらい、云ってやりたいのに。
あーあ…、綺麗な顔してんのに、隈出来たら台無しだろって……。
…………台無しにしてる理由は、あたしか。
小さく呟いてみるけど、やっぱり違和感は無ェ。
…寧ろ、安心感が増してる。
部屋に帰ろうとした刹那
グイッ
ギュッ
彼奴が、急に抱き締めてきた。
あぁ、これがバックハグと言われるものなのか
………暖かい。
暖かくて、安心する。
まあ、そうだけど、其れと此れとは繋がらないし…
……其れならそう、言ってくれりゃあ良いのに。
心の奥底では感じていた、此奴への愛。きっと、記憶のある私が残していった宝物。
何かがあたし達を繋ぎ止めてる以上、絶対に離さない。
もう良い、此方からしてやる
チュッ
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。