第10話

その後01.私と玲
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2017/09/18 12:51




◇◇◇


月明りが夜を照らす、深夜の満月はいつもの風景を妖艶に魅せる。

窓から覗くそれは、この雰囲気に拍車を掛けているかの様に見えた。







「‥‥紗季、こっちおいで?」

「‥‥いい」

「ツンとしてる紗季も可愛いよ」

「いや、やめて‥‥‥ッ」

「あれ、忘れたの?抵抗したらした分だけ、僕はキミを求めると言ったよね?」

「‥‥‥ッ、」

「アッハハハ‥‥‥ッ!嫌がりながらも僕を受け入れざるを得ない紗季のその表情、本当に良いよ?愛おしいよ」

「い、たいっ、」



もう何百回、あたしは玲に貪られているんだろう。

そして何百回、ここから逃げ出しただろう。









玲の本性を知って、初めて逃げ出したあの日からあたしは玲に怯えている。

愛に縛られるだの、恋に溺れるだなんて次元の話ではなくなってきている。



今は単純に、ここまであたしを愛す玲本人が恐怖の対象でしかない。



―――どうして?

―――何故あたしを?




「玲ッ、ダメ!」

「イキそうなの?いいよ、見てるから。僕の可愛い紗季がイク姿を見ているよ」

「いやっ、だぁ」





身体と心は一つだなんて嘘だ。

どんなに狂気に纏った玲を拒絶しても、その玲に与えられた悦びをあたしは受け取らなくてはならない。

身体はそれを、心待ちにしていたかの様に彼に捧げようとする。





―――怖い、怖い。
















今日のこの行為は、昨日あたしが玲から逃げようとした罰。




玲の常軌を逸した愛をどう足掻いても受け入れられなくて、何度も何度も逃げ回ってみたけれどそんなものはせいぜい以て一日だった。


友達の家に逃げ込んでも、無名のビジネスホテルに身を潜めても必ず玲はあたしを見つけ出しては爽やかな笑顔さえ浮かべてこのマンションに連れて戻る。






「こっち向いてごらん?紗季」

「触ら、ないで」

「うーん、まだ隙あらば逃げてやろうって顔してるね」

「‥‥」

「どうしても逃げたいなら海外にでも行かなきゃ。国内だと僕のテリトリー内だと思った方がいい」

両頬をグッと掴まれて、少し目を細めて笑う玲にせめてもの反抗と言わんばかりに睨み返す。





こんな関係を、あれから三ヶ月以上ずっと続けている。

玲と結婚するか、それとも別れて父親の勧めるがままにお見合いをして全く知らない人と結婚するかの二択しかない状況に追い込んだのは玲。


けれど直接あたしの父親に会って「真剣に考えたいのでもう少し時間をくれ」と頼んで承諾させたのもまた玲本人だった。













「そんなに睨んじゃって。ねぇ、僕のお嫁さんになる準備は出来たの?」

「なるわけないでしょ!」

「そう?でも昨日紗季のお義父さん言ってたよ?是非ウチの娘を貰ってやってほしいってね」

「は、はぁ?昨日も会ったの?!でもお父さん玲の事浮気してたって‥‥」

「ちゃんと話したよ。一切浮気はしてないし、紗季さん一筋ですってね。今じゃ良く酒の場にお呼ばれするほど仲だよ。紗季より仲良いんじゃない?」




なんて食えない人なの。

これも全て計画済みでしたって?



どうしてこんなにもあたしを離さないと必死なわけ?

これだけ「あたしを離して」と懇願しているのに、玲の中の何がここまで引き止める理由になっているの?



「明日仕事でしょ?もう寝なきゃね」っと言いながらまたいつもの様に玲の大きな灰色のパーカーを着せられる。理由は分からないけれど彼はいつも行為が終わると自分の服を着せたがる。

玲のものに包まれると玲の匂いにすら支配されているかの様な気分になるから好まない。



羽毛布団を肩まで掛けられて、後ろから強く抱きしめられながら夜を明かすのはもう日課。


「離してったら‥‥」

「早く慣れるといいね」

「いい?あたしは玲の事なんて愛してないし愛せないの。散々言ってるでしょう?」

「そうやって自分はこんな人間ですって言うレッテルを貼るのやめたらどう?」

「本当の事よ!」

「はいはい、もうそろそろその台詞聞き飽きたよ」











「シー」っとあたしのくちびるを人差し指で押さえて片肘を突きながら見下ろす玲。


その漆黒の瞳であたしの何を見ているの?

あたしはこんなにも人に愛される人間じゃない。玲が夢中になるような、そんな何かを持ち合わせてはいないのに。







「ほら、そんなに僕を見つめてないで寝なくちゃ。お休み、僕の紗季」

ギュッと抱きしめられる力が増す。


それに比例してあたしは何も言い表せられない不安をまた抱く。










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