⚠今回のお話は、番外編の最終話【人生の主人公】で告白した相手が中也さんだった場合の後日譚となっております。
⚠かなり甘め。お気をつけを。
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疲れを微塵も感じさせずに帰宅した中也さんの顔にそれが滲み出る。
お疲れの彼に小さな笑いを、と、私なりの気遣いだったのだが失敗したようだ。ぴえん。
仕方ない、流行が駄目なら古典的なものをお見舞いしようじゃないか。
顔を凝視される。穴でも空くんじゃなかろうか。古典的なやつでも駄目ですか…
さてさて、どうしたらいいのだろう。
日常にちょっとした笑いを取り込むって難しいんだなぁ。芸人さんて凄いなぁ。
自分の世界に入り込んでしまっていた私を現実に引き戻す一声と、覆い被さる温かくて重いもの。慌てて支える体勢に入るが、鍛えてる成人男性を受け止めるのは中々に難しいものだ。落ちそう。
甘えるような声色に、心臓がきゅっとなる。
いや、嬉しいけども。可愛いけども。
うーん、これはだいぶお疲れのようだ。
マフィアなんてブラック企業の代名詞みたいなもんだろうしなぁ。
お疲れの恋人を労うのは彼女さんのお役目!頑張っちゃうぞ!
へっぴり腰になりながらお姫様抱っこを試みる。重い。
筋肉の塊なんじゃなかろうか。いや無理だろこれ。一歩も動かないだろ。ふぬ。
ちょっと意地を張ってみる。だってお姫様抱っこって憧れじゃないか。
それに、中也さんの負担を減らしたいのも本心だもの。
ふわっ、と、急に重みが/zeroに。ああ、異能力を使ってくれたんだな、なんて感想を抱くと同時に腰が逝った。そりゃまぁ見事にグキっと。
びっくりしたような中也さん。
私もびっくりだよ、まさか自分の体がこんなにおばあちゃんだとは思わなんだ。
大人の階段登っちゃったな。
ひょいと私から逃れた彼が、今度は流れるような仕草で私を姫抱きする。
あまりにも自然にされるもんだから、一瞬情けないスペキャ顔を晒してしまった。
だって私は、中也さんのお手伝いがしたかったのに。
結局仕事を増やしてしまっただけじゃないか!
違うもん!私はもっとできる女だもん!
呆れたように、おかしそうに、楽しそうに、そんな風に笑われてしまったら怒ることも文句を言うことも出来なくなってしまう。かっこよくて、ズルい。中也さんは意地悪だ。
優しくソファに降ろされる。結局運ばせてしまって情けない限りだ。
代わりに玄関に置きっぱの荷物はあとで運んでおこう、と決心する私を中也さんが見下ろす。
彼越しの白い天井になんだか目がチカチカした。
………あれ、見下ろす?天井?
私の髪を梳いていた彼の手が頬をくすぐる。
こそばゆさと恥ずかしさで、血液が沸騰しそうだ。
今どきの小学生は「バリア!!!」ってもう言わないのだろうか。いやそんなことどうでも良くて。サマンサって誰だよ可愛いな、じゃなくて、ええと。
ギュッと目をつぶる。頭がぐるぐるしてどうしたらいいのか分からない。いや、こんな風に甘えてくれるのは嬉しいけど…!でも、疲れてる彼に無理なんて…!!!
待てども予想していた刺激はなく、ただ温もりを感じるだけだ。恐る恐る目を開ける。
私に覆い被さるように、抱き枕にするみたいにくっついて、まぶたを閉じる彼が目に入る。ソファなんて、狭いだろうに。触れ合った箇所から体温がじんわり伝わって温かい。愛おしい。
そっと柔らかな髪を撫でる。
なんだか安心すると同時に、物足りないような、少し寂しいような、ワガママな気持ちに気付いて。
いやいや、私はそんな悪い子じゃないもん。できる女だもん。嘘じゃないもん!
熱い吐息が耳にかかる。
起きてたのか。狸寝入りか。ポン太って呼んでやろうか。
ビックリして大袈裟な反応してしまったのが悔しい。
じとりと視線を向けると、彼はしてやったり、とでも言うような笑みを浮かべた。やられた。
恥ずかしいやら、こそばゆいやら。
あつくてあつくて汗をかいてしまいそう。
それなのに、私たちはしばらくくっついてうたた寝をした。
今からこれじゃあ、夏が来たら大変だね、なんて笑いながら。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。