第106話

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2021/05/09 04:22
⚠今回のお話は、番外編の最終話【人生の主人公】で告白した相手が太宰さんだった場合の後日譚となっております。

***

あなた

もしもし太宰さんや。わしぁもうそこまでされる謂れはねーんじゃないですかい

太宰治
太宰治
ん、何がだい?
照れ隠しにぶちかました演技については何も言及せず、ただ意図を吐かせるように首を傾げる太宰さん。嫌な人だ。どうせ、私の聞きたいことなんて分かってるくせに。
あなた

つまり直球に言うと鬱陶しいです

太宰治
太宰治
仮にも恋人に向かって言う台詞かい、それ?
いや苦笑いしたいのはこっちだけどね??

相変わらず太宰さんはボディガードよろしく、私が一人の時や誰かと二人の時にチョロチョロと付いて来ていた。

彼も私のことを想ってくれている、と気付いてからは、それがまぁ束縛というか牽制というか、小っ恥ずかしいものだとは分かっていたけれど。

ねぇ、それまだいるのん?
仮にも恋人ちゃうんですのん?
あなた

そんなに私って信用できないんです?

少しふくれてそう尋ねる。
あなた

そんなに誰かにホイホイ付いてくように見えるんです?

だとしたらすっごい心外だ。
太宰治
太宰治
だって君、ちょっとお菓子とか女の子とかそういうので釣られるじゃないか。
両手を広げる太宰さん。いや、まぁ、うん。確かにそうだけどさ。
太宰治
太宰治
幼女だってもう少し危機管理しっかりしてるよ!
酷い言いようだ。ちょっと恥ずかしいのとイラッとしたので腹パンを繰り出した。腹の警戒を解いた貴様の負けだ!結構いい感じに入って、大満足。
太宰治
太宰治
ぐふっ…酷いなぁ…
はは、と笑う太宰さん。殴られたのに嬉しそうなのは、彼がそういう嗜好だからなんです?それはちょっと、いやだいぶ私には荷が重いのだが
太宰治
太宰治
……でも、こんなもんだよね
あなた

はい?

先程までと違う声色に驚いて彼を見上げる。冷たい目が目に入った。
太宰治
太宰治
君はちょっと油断しすぎだよ
腕を掴まれて、路地裏に引き摺られる。あまりの力強さに心の底から驚いて、驚いて、怖いという気持ちよりずっとそっちの方が強くて呆気に取られた。
あなた

あの、太宰さん、私は別にSMに興味無いんですが

いやまぁ、恋人の好きなことなら尊重はするけどさぁ?
痛いの嫌いだからなぁ。初回特典とかで、だいぶソフトに抑えてくれないかなぁ。
あなた

いっ……た…

手首を握る力がまた強くなった。これはちょっと痛い。嫌だ。

驚きに追いやられていた恐怖が舞い戻ってきて、ようやく何か怒らせてしまったのだと理解した。でも、ちょっと怒ったくらいでこんなんとかDV男じゃない?やっぱ太宰さんてそっち系??

…ふと太宰さんを見ると、冷たい目と目が合った。先程までは混乱して、自分の腕と彼の手ばかり見ていた。
太宰治
太宰治
やっとこちらを見たね
…うん、ごめんね。
太宰治
太宰治
…そういう顔をさせたい訳じゃあないのだけど……
彼が少し困った顔をする。なんだか張り詰めていた空気がふっと緩んだ。
太宰治
太宰治
事実として、君は弱い。たかがこんな程度の拘束も解けないくらいに。
まぁ、太宰さんの拘束解けたらそれはそれでゴリラだと思うけども。
太宰治
太宰治
…まだそんなこと言ってるのか、君は
緩んだ空気に、先程の困った顔に、呆れた声に、また少し油断してしまった。

…直ぐにそれを後悔する。
太宰治
太宰治
状況、わかってるかい?君は今、男に捕まっているんだよ
あなた

いッ

掴まれていた腕が、抵抗する間もなく後ろで組まされる。
両腕をがっちがちに拘束された私とは裏腹に、太宰さんはそれを片手一本で成し仰せていた。

痛みはあまりない、けれど、本気で動けない。
…ちょくちょく忘れちゃうけど、太宰さんて芥川さんの師匠なんだよなぁ…
太宰治
太宰治
へぇ、この状況で他の男のことを考える余裕があるのかい
私を拘束していない方の手が首筋をつぅと撫でる。刺激に変な声が出た。猿みたいな。ウギャッ。

後ろを向いているから、太宰さんの顔は見えない。
でも、何となく表情が分かって、少し胸が痛くなった。


私だって、そんな顔させたい訳じゃあないのだ。
あなた

…ねぇ、太宰さん。確かに私はこうなったらどうしようも出来ないくらい弱いですけれど

もう一度身動ぎしようとして、諦めた。
簀巻きにされてんのかな?って思うくらいだ。

まぁ足は動くから蹴ろうと思えばできるけどね?
きっとそれもいなされてしまうのだろう。
あなた

でも、太宰さんじゃなかったらとっくに喚いてるし、異能使ってるよ

芥川さんに捕まった時に、そうしたみたいに。
案外私は、弱いままで戦えてきている。

もちろん、それは他力本願な力なんだけれど。でも、ちゃんと私の力だ。
あなた

不安にさせてごめんなさい

太宰治
太宰治
………まぁ、今君異能使えないけどね
あなた

そういえばそうじゃん!?

説得力が砕け散る音がした。
いやでもさー!太宰さんだからじゃんそれは!!太宰さんじゃない人なら大丈夫じゃん!!
あなた

それはちょっと意地悪です!

太宰治
太宰治
…ふふ、そうだね
拘束が緩んで、ダンスを踊るみたいにくるりと回転させられた。
必然的に、太宰さんを抱きしめる形になる。おい確信犯。
あなた

…もー、何がしたいんですか

良いようにされているのがなんだか気に食わなくてジトリと目線を向けると、彼は笑って答えた。君の顔が見たかった、と。

その優しげな表情に、胸がキュンと音を立てる。いや。いやいや。いやいやいや。これ思いっきりDV男にハマる女の典型なのでは!?やばいのでは!?
太宰治
太宰治
私が理由なく君を傷付けると思っているのなら心外だな
拗ねたような顔。いや、さっきのは私が悪かったって理解はしてるけどね?
太宰治
太宰治
私はちゃんと優しいだろう?
あなた

そうやってまたふざけるんですから

呆れが1周回って、なんだかおかしくなってきた。思わず笑ってしまった。

今度は優しく手を引かれて、暗い路地裏からエスコートされる。先程までの力強さを思い出して、その優しい手に少しドキリとした。

…この手に、ぎゅってされてたんだ。
あなた

いやいやいやいやいや!!!

私にそういう嗜好はない!!!!ふざけんな!!!!!
浮かんだ感想と胸のざわめきを蹴り飛ばす。危ない気がした!!!
太宰治
太宰治
いきなりどうしたんだい?
あなた

フラグを吹っ飛ばしただけです

太宰治
太宰治
フラグを
何度も言っている通り、私にそういう嗜好はないのだ。
余計な思考を振り払って、口を開く。
あなた

そういえば、太宰さん。私が最初に言いたかったのはですね!

太宰治
太宰治
うん?
これからのセリフを思って、少し頬が高揚した気がした。ええい、ままよ。
あなた

私はあなたの恋人なんですから

ぎゅ、と握った手を持ち上げた。
裏でコソコソしてないで、こうやって普通に一緒に居てくれたらいいんです。と。
太宰治
太宰治
…それもそうだね
少し目を丸くした太宰さんが、頬を綻ばせてそう答えた。
あなた

恋人の手を握るのに、理由なんていらないんですよ

ただ、手を繋ぎたいと言いたかっただけなのに。随分と遠回りをしてしまった。
全く、太宰さんも私も不器用なものだ。

晴れ渡る青空を見上げて、苦笑を零した。
きっと私たちはこれからも、くだらないことを伝え合うのに苦労しそうな気がして。


ならばのんびりいこう。
私たちのやり方で、私たちのペースで。

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