日常編
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まぁ、うん、確かに。雨宿りするひぐっちゃん見たら突撃するだろうけども。
かなり大降りの空を見上げる。
その雨量ときたら、雨の一粒一粒がもはや点じゃなくて線にみえるくらいだ。
わかりやすく言ったら、アイビスのペン5pxくらい。え、わかんない?
そっかぁ…じゃあソーメンくらい。
止まないのであれば濡れてでも帰ろう、という意思が見て取れたので「すぐに止むと思うな!」と返す。実際どうだかは知んないけど、女の子をびしょびしょにさせる訳にはいかないだろ!雨も滴るいい女ってか!悪くないな!!
私の顔をちらりと見て、ひぐっちゃんが溜息をつく。いや、うん。それちょっと傷付くぜ?
まぁ、普通に偶然ではあるんだが…。
私は昼休憩でお買い物に。そしたらしばらく歩いた所で雨が降り始めたから、急いで近くの屋根の下に行ったら先客が。そりゃあ喜んじゃうよね!赤い糸繋がっちゃってるー?みたいな!
なのにひぐっちゃんたら駆け込んでくる私をブロックしようとするわ、いざ入れてくれたと思ったら自分が出ていこうとするわ。まったく、恥ずかしがり屋も程々にして欲しいものだ。
その言葉に隣を見る。ひぐっちゃんは雨雲を睨んだままだったが、それがわるい意味じゃないってことは伝わってきた。
嬉しくて、つい照れ隠しをお見舞いしてしまいそうになったけど、我慢我慢。
なんだか2人でゆっくり話すのは久しぶりな気がする。
そう思うと、降り始めた時には「雨コノヤロー!」だったけど今は「雨いいぞもっとやれ」だ。いや、うん、あまり長引かれるとひぐっちゃん飛び出しちゃうだろうけど。
可憐な声に、視線を落とす。そこには、右手に傘をさし左手に傘を抱える鏡花ちゃんの姿があった。
即答されて肩を落とす。全く、私の周り、っていうか探偵社とマフィアのガールズたちったら強すぎないかしら。だわよ。
呆れたように言ったひぐっちゃんが、淡々と答える。「情けなどいりません」と。
みんなして本当に酷いよね!
泣き真似をしてみせたら、二人はまた呆れてように笑ってくれた。嬉しい。
鏡花ちゃんが差し出した傘をちらりと見て、ひぐっちゃんはまた「結構です」と言った。
うん…?なんか、これ、こそばゆいっていうか……論点が傘じゃなくなってるっていうか………自惚れるっていうか…
わりと勇気を振り絞ったお誘いはにべもなく却下される。ぴえん。自惚れてごめんなさいね!
てかひぐっちゃん言ってることめちゃくちゃだし、鏡花ちゃんちょっと怖いですそのおめめ。
うーん、負けず嫌いなだけかしら。実は仲良しだよねまだふたり。
どちらにせよ、まぁ、三人で雨宿りっていうのも悪くは…
あ。
5pxの雨はポタリポタリのおはじきサイズにかわり、そしてすっかりカラカラに。
空には虹がかかっている。
ぽかんと空を見上げるふたり。
これあれだ、「おそらきれい」ってやつでは?違う?
ワクワクしてきてそういった私に視線を落とした二人は、やがてどちらともなく顔を見合い、そして溜息をついた。
帰っちゃうの?喫茶店は?甘味処は?逢引は!?さっきまでのは!?
さっきのワクワク返してほしいな!?
そんな私の叫びは、虹の向こうに吸い込まれていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!