想像と違う反応をされました…
一寸びっくり。思わずフリーズします。
そんな私に、彼は短く答えた。
その言葉は、胸に突き刺さる。
満足、してる筈。
悩んで、後悔しないように決めたんだから。
でも。
───── 私は、彼からの
「探偵社に戻れ」
ッて言葉を期待した。
其れが、何よりも私の願いを物語っている。
そして、それは私がいると成立しない。
役に立つ異能を持つ訳でもない、
超人的な頭脳を持つ訳でもない、
凄い身体能力を持つ訳でもない、
桁外れの美貌を持つ訳でもない、
私は至って普通の…元気だけが取り柄の女の子なんだ。
視界が膨らんだ。そのまま、張り裂けそうに揺れる其れを、乱暴に袖で擦る。
電灯が点滅して、停電が起きた。
其れに驚いた店員さんが、つまづいた。
持っていた紅茶が、降る。
白いシャツに、茶色の染みが広がる。
平謝りする店員さんに、微笑んで手を振った。彼女の所為じゃない。
最近は、収まってきていたとは思ったのだけれど…
もう、社長の異能の範囲外になって仕舞ったのかもしれない。
音を立てて立ち上がった中原さんが、ぐいっと私の頬を拭う。
引き伸ばされた紅茶の香りが、ふわりと届いた。
小さく笑って、拭った指をぺろりと舐める。
悪い事だけじゃねぇだろ。そう、彼は言った。
手前にその異能があったから、知り合うことが出来たのだと。俺は手前の異能が嫌いじゃねぇ、と。
自分の所為で人が傷付く。
其ういって身を引くのは、ただの逃げだ。
全力でぶつかれッつッたのは手前だろ?
やりたい事が、出来た。居ても立ってもいられない。
じっと出来ない。心臓が騒ぐ。
私は、きっと誰かに…
私を、異能を好きだと言って欲しかったンだ。
お代を置いて店を飛び出る。
頑張れよ、と。
そう言われた気がして私は、思いっきり笑ってみせた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!