冬獅郎は獅子頭を見上げて言った。
獅子頭は昨日と同様に、午後の授業をサボった。
いつもなら「飽きたから」「つまんない」などとの理由が、今日は違った。
獅子頭は少し子供っぽい表情をして、頬を膨らませた。
会話が終わると、冬獅郎はすぐに本の世界へ戻っていった。
獅子頭も隣からのぞき込むような形で見ていたが、本を読みなれた冬獅郎のスピードに、全くついていけなかった。
冬獅郎はページをめくりながら言った。
思ったことが分かるかのような冬獅郎の返答に、獅子頭は目を丸くした。
すると、獅子頭はベンチに座るのをやめ、公園を出た。
冬獅郎は、本ではなく、去っていく獅子頭の後ろ姿に視線を向けていた。
冬獅郎の小さな声は、風に吹き消されてしまった。
公園を出た獅子頭は、近くの書店へ入った。
獅子頭は並べてある本をじっと眺め、興味を引かれた一冊の本を手に取った。
獅子頭は本を手にし、レジへ向かった。
本を購入した獅子頭は、公園へ戻った。
ベンチには、まだ冬獅郎が座っていた。
獅子頭は本を、冬獅郎の顔の前に突き出した。
中学でまともに勉強してこなかった獅子頭は、何が何だかさっぱりだった。
その日は2人は一緒に本を読んだ。
獅子頭が読書に没頭している時、冬獅郎は視線を一瞬獅子頭へ向けた。
獅子頭は頑張って本を読んでいて、周りの音なんか聞こえてなかったようだった。
もちろん、冬獅郎の声も。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。