第2話

ヤンキー君の本
1,935
2017/09/06 12:44
冬獅郎
冬獅郎
...また来たんだね
獅子頭
獅子頭
おう
冬獅郎は獅子頭を見上げて言った。
獅子頭は昨日と同様に、午後の授業をサボった。
いつもなら「飽きたから」「つまんない」などとの理由が、今日は違った。
冬獅郎
冬獅郎
また午後サボったの?
獅子頭
獅子頭
今来なきゃ、冬獅郎いない気して...
冬獅郎
冬獅郎
...昨日も言ったけど、僕は毎日、午後にここへ来る。いつも同じベンチにね。だから、放課後でもいるよ。
獅子頭
獅子頭
イコール、「授業出てこい」ってことだろ?
...お前は俺の親かよ(ムー
獅子頭は少し子供っぽい表情をして、頬を膨らませた。
冬獅郎
冬獅郎
...表情豊かで、可愛いね(ボソッ
獅子頭
獅子頭
ん?今なんか言った?
冬獅郎
冬獅郎
表情豊かだなーって
獅子頭
獅子頭
そりゃどうも
会話が終わると、冬獅郎はすぐに本の世界へ戻っていった。
獅子頭も隣からのぞき込むような形で見ていたが、本を読みなれた冬獅郎のスピードに、全くついていけなかった。
獅子頭
獅子頭
あのさ、オススメの本とかってあるか?

((読みなれてるヤツと同じペースは無理があるな...))
冬獅郎
冬獅郎
本を読みなれていないようだし、挿絵の多い本がいいと思う。
ちょっとは、本の世界を想像しやすいと思うよ。
冬獅郎はページをめくりながら言った。

思ったことが分かるかのような冬獅郎の返答に、獅子頭は目を丸くした。
獅子頭
獅子頭
お、サンキュ!
すると、獅子頭はベンチに座るのをやめ、公園を出た。

冬獅郎は、本ではなく、去っていく獅子頭の後ろ姿に視線を向けていた。
冬獅郎
冬獅郎
...そんなに、君は僕に近づきたいの?(ボソッ
冬獅郎の小さな声は、風に吹き消されてしまった。
公園を出た獅子頭は、近くの書店へ入った。
獅子頭は並べてある本をじっと眺め、興味を引かれた一冊の本を手に取った。
獅子頭
獅子頭
えっと?『東海道中膝栗毛』か...
どっかで聞いたことあんな...
獅子頭は本を手にし、レジへ向かった。
本を購入した獅子頭は、公園へ戻った。
ベンチには、まだ冬獅郎が座っていた。
獅子頭
獅子頭
とーしろー!本買ってきたー!
獅子頭は本を、冬獅郎の顔の前に突き出した。
冬獅郎
冬獅郎
『東海道中膝栗毛』って...
渋いの選んだね。面白いからいいと思うよ。
獅子頭
獅子頭
これさ、どっかで聞いた気がすんだけど、わかんねーのよ(ンー
冬獅郎
冬獅郎
中学歴史でやるね。
十返舎一九が書いたって。
獅子頭
獅子頭
...じっぺんいっく?
冬獅郎
冬獅郎
十返舎一九ね。
中学でまともに勉強してこなかった獅子頭は、何が何だかさっぱりだった。
冬獅郎
冬獅郎
せっかく買ってきたんだから、ここで読みなよ。(自分の隣を叩いて示す)
獅子頭
獅子頭
おう!読んでく!
その日は2人は一緒に本を読んだ。
獅子頭が読書に没頭している時、冬獅郎は視線を一瞬獅子頭へ向けた。
冬獅郎
冬獅郎
まだ会ったばかりも同然...
なのに、なんでずっと前から会ってた時と同じ感じで接するの?(ボソッ
獅子頭は頑張って本を読んでいて、周りの音なんか聞こえてなかったようだった。
もちろん、冬獅郎の声も。

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