洗った食器をふいていると、背中から声をかけられた。
やりたいことは、一応ある──でも、冬獅郎とやりたいことか・・・。
後ろにいた冬獅郎は、ふーん、と言って、厨房を出ていった。
反応しづらくしちまったか?でも、本当のことだからなぁ・・・・。
ふいた食器を片付け、俺も厨房を出た。冬獅郎はソファーに座って、何か考えているようだった。
俺は冬獅郎の横に座り、下から彼の顔を覗き込んだ。パーカーが大きいせいで首元が開くから、ちょっとスースーする・・・・。
服をおさえながら冬獅郎をじっと見ると、目を向けず応えた。
一度納得してしまって顔を正面へ向けたけど、遅れて脳が言葉の判断したせいで、再び冬獅郎の方を向いてしまった。
俺はまだ『デート』というワードに、とらわれたままで、あんまり頭は働かなかった。
冬獅郎は横でうーん、とずっと言っているし、たぶん、俺が「一緒ならどこでもいい」って言ったから尚更なんだろう。
少しの焦りと頭から離れないワードによるショート状態が、俺の口からある場所を出した。
言ったあとから、顔に熱が上がってきた。
やってしまった。高校生と大学生が平日に遊園地・・・、これは引かれたか!?
最後に行ったのがいつかわからないくらい、たぶん遊園地とかには行ってない。
たしかに、久しぶりに行ってみたいな〜、とは思っていたけど、そんな一瞬思ったくらいの願いが、今は口から出るとは思わなかった・・・。
今すぐだとは思わなかった・・・。
俺が驚いて固まっていても、冬獅郎は表情を一つも崩さず、部屋へ入っていった。
小さい時の遠足の気分だ。
いつぶりだろう。こんなに誰かと一緒にいたいと思えたのは──。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。