第21話

無表情君が可愛い
1,022
2017/11/13 13:44
店員
おまたせしました
湯気の立っているラーメンが2つ、俺たちのテーブルに置かれた。
獅子頭
獅子頭
美味そ・・・
冬獅郎
冬獅郎
だね
俺達は本に栞を挟み、置いてあった割り箸を割った。割り箸は、わりといい感じに割れた。
冬獅郎
冬獅郎
真っ二つだね
獅子頭
獅子頭
すごいだろ!
冬獅郎
冬獅郎
うん、上手い上手い
冬獅郎も上手い感じに割れてたけど、笑って褒めてくれた。なんか嬉しい。
獅子頭
獅子頭
いただきます!
俺は手を合わせ、綺麗に割れた箸の先を、熱いラーメンにかけた。
猫舌とかではない俺は、少し麺に息を吹いてからどんどん食べた。食べるのに夢中で、「上手い!」とかしか言わなかった。
獅子頭
獅子頭
熱々だな。・・・って、あれ?
冬獅郎に「美味しいな」と言おうとしたけど、俺の声が詰まってしまった。
目の前のアイツは、俺が三口ほど食べる間に、まだ一度も食べていなかったのだ。ずっと麺に息を吹きかけて、少し険しい顔をしていた。
冬獅郎
冬獅郎
まだ熱そうだな・・・
獅子頭
獅子頭
え、冬獅郎って、猫舌?
冬獅郎
冬獅郎
うん。だから、カップ麺とかもあんまり食べれないし、スープも好きだけど、食べるの時間かかる
獅子頭
獅子頭
なんか・・・意外だな
冬獅郎
冬獅郎
そう?
冬獅郎は熱かった麺を、口へ運んだ。
冬獅郎
冬獅郎
あつ・・・っ!
麺を口に入れると、小さな声と共に苦い表情を浮かべた。口に入れてしまったまだ熱い麺を、冬獅郎はゆっくり口へどんどん入れていった。やっとひと口目が終わり、そばにある水を飲んだ。
苦手な熱さから解放されて、冬獅郎はふぅ、と冷たい息を静かにもらした。
冬獅郎
冬獅郎
熱かった・・・
獅子頭
獅子頭
ゆっくり食べろよ。俺はずっと、待ってるからさ
長い前髪で見えづらかったけど、彼の頬は少し赤くて、目線もこちらに向けられていなかった。恥ずかしいのか、いつものクールなオーラが、また別のものに変わっている気がした。
そんな彼の姿が可愛く見えて、キュンとした・・・?たぶん、キュンとした。
獅子頭
獅子頭
・・・可愛いんだな
俺が呟くと、冬獅郎の表情は、いつものクールなものに戻っていた。目線を合わせてくれたのは嬉しいけど、なんか残念・・・。
冬獅郎
冬獅郎
何が?
話の流れ的にわかると思ったけど、本人は全くわかっていないようだった。少し首を傾け、箸を止めている俺を見る。
獅子頭
獅子頭
冬獅郎が
冬獅郎
冬獅郎
・・・・・・。・・・・・・!?
冬獅郎は驚いたのか、目を見開いた。頬は薄く、耳は真っ赤になっていた。
獅子頭
獅子頭
え、そんなに驚く?
冬獅郎
冬獅郎
いや、獅子頭に言われたくない、かな・・・。第一、君の方が可愛いし・・・、俺は、そんな要素一つもないし・・・
顔を少し下に向け、オロオロとしている冬獅郎は、やっぱり赤くなっていた。こんな冬獅郎、レアなんだろうな。シャメ撮りてぇ。
すると、ぼそぼそと呟いていた声を止め、冬獅郎は話題を切り替えようと声を出した。
冬獅郎
冬獅郎
そ、それより、ラーメン食べよ
獅子頭
獅子頭
え、おい、それはちょっと多いんじゃ・・・
箸を持ち直し、彼は麺の中に箸を入れた。驚いたことに、さっきは少しだったのに対し、今度は少し多めに、麺をすくい上げた。
流石にやばいと感じた俺は、冬獅郎に声をかけたが、少し遅かった。
冬獅郎
冬獅郎
あちっ!?
息を吹きかけていない、湯気のたったラーメンは、冬獅郎の唇に触れてしまった。少しは暑くても平気な俺でも、空気に少しも触れさせてない麺は、唇にに付けれない・・・。
冬獅郎は箸を一度置き、そばにあったおしぼりを、口に当てた。
獅子頭
獅子頭
あの量は口に入らないわな・・・
冬獅郎
冬獅郎
・・・熱い
結局、俺は普通に食べながら、冬獅郎は時間をかけて、ラーメンを食べた。

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