湯気の立っているラーメンが2つ、俺たちのテーブルに置かれた。
俺達は本に栞を挟み、置いてあった割り箸を割った。割り箸は、わりといい感じに割れた。
冬獅郎も上手い感じに割れてたけど、笑って褒めてくれた。なんか嬉しい。
俺は手を合わせ、綺麗に割れた箸の先を、熱いラーメンにかけた。
猫舌とかではない俺は、少し麺に息を吹いてからどんどん食べた。食べるのに夢中で、「上手い!」とかしか言わなかった。
冬獅郎に「美味しいな」と言おうとしたけど、俺の声が詰まってしまった。
目の前のアイツは、俺が三口ほど食べる間に、まだ一度も食べていなかったのだ。ずっと麺に息を吹きかけて、少し険しい顔をしていた。
冬獅郎は熱かった麺を、口へ運んだ。
麺を口に入れると、小さな声と共に苦い表情を浮かべた。口に入れてしまったまだ熱い麺を、冬獅郎はゆっくり口へどんどん入れていった。やっとひと口目が終わり、そばにある水を飲んだ。
苦手な熱さから解放されて、冬獅郎はふぅ、と冷たい息を静かにもらした。
長い前髪で見えづらかったけど、彼の頬は少し赤くて、目線もこちらに向けられていなかった。恥ずかしいのか、いつものクールなオーラが、また別のものに変わっている気がした。
そんな彼の姿が可愛く見えて、キュンとした・・・?たぶん、キュンとした。
俺が呟くと、冬獅郎の表情は、いつものクールなものに戻っていた。目線を合わせてくれたのは嬉しいけど、なんか残念・・・。
話の流れ的にわかると思ったけど、本人は全くわかっていないようだった。少し首を傾け、箸を止めている俺を見る。
冬獅郎は驚いたのか、目を見開いた。頬は薄く、耳は真っ赤になっていた。
顔を少し下に向け、オロオロとしている冬獅郎は、やっぱり赤くなっていた。こんな冬獅郎、レアなんだろうな。シャメ撮りてぇ。
すると、ぼそぼそと呟いていた声を止め、冬獅郎は話題を切り替えようと声を出した。
箸を持ち直し、彼は麺の中に箸を入れた。驚いたことに、さっきは少しだったのに対し、今度は少し多めに、麺をすくい上げた。
流石にやばいと感じた俺は、冬獅郎に声をかけたが、少し遅かった。
息を吹きかけていない、湯気のたったラーメンは、冬獅郎の唇に触れてしまった。少しは暑くても平気な俺でも、空気に少しも触れさせてない麺は、唇にに付けれない・・・。
冬獅郎は箸を一度置き、そばにあったおしぼりを、口に当てた。
結局、俺は普通に食べながら、冬獅郎は時間をかけて、ラーメンを食べた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!