第24話

無表情君の夢
950
2017/11/18 04:24
冬獅郎
冬獅郎
公園で見かけた時はわからなかったけど、名前を聞いてわかったよ。獅子頭って名前、珍しいしね
獅子頭
獅子頭
メガネかけてなかったから、全くわかんなかった・・・
額に手をあて、少年と冬獅郎を重ねた。たしかに、冷静な雰囲気も、ぼさぼさの頭も、今思えばそっくりだ。
冬獅郎
冬獅郎
今はそこまで、視力悪くないんだ。今もしっかり、ライくんの顔見れてるしね
獅子頭
獅子頭
ライくんやめろ・・・
冬獅郎
冬獅郎
でも、また会えるなんて思わなかったよ
冬獅郎と公園で会った時のことを、脳裏に思い起こした。改めて思うと、なんであんなに気安く声をかけれたのか、わかった気がする。
本を読んでいる彼を見て見覚えがあったのは、もぅ既に一度会っていたからかもしれない。
冬獅郎
冬獅郎
あ、そろそろてっぺんだね
獅子頭
獅子頭
え、・・・?
天井に付けられた一枚のガラス窓からは、乗った時にあった障害物はあまり無く、ただ暗くなった空が見えた。しかし、赤い太陽は海に沈みきっていなかった。
二つの景色を数度、交互に見ていると、ねぇ、と声をかけられた。視線を上から前に戻すと、声をかけた本人は、少し目を細め、軽く微笑んでいた。
冬獅郎
冬獅郎
もう一つ、夢だったことがあるんだけど、聞いてくれない?
獅子頭
獅子頭
お、おう。もちろん
すると彼は、隣に座るよう言ってきた。自分の隣を手でぽんぽんと示すから、俺はゆっくりと立ち上がった。すると、乗り物はグラッと揺れ、俺は腰をおろしてしまった。
俺が座り、揺れはすぐに収まったものの、また揺れるのが少し怖くて、立ち上がれなかった。
冬獅郎
冬獅郎
ゆっくりでいいよ、ほら
冬獅郎は、俺に手を伸ばしてきた。しかしその手は、座ったままでは届く距離になく、少し立たなければならなかった。気は引けたが、冬獅郎の頼みだと思うと、立たずにはいられなかった。
俺は一呼吸置いてから、駆け出すように冬獅郎の手を取った。そして、そのままの勢いで冬獅郎の胸に飛び込んだ。
冬獅郎
冬獅郎
おっと・・・。怖い?
獅子頭
獅子頭
う、うるさい・・・
揺れはさっきよりも大きく、俺は冬獅郎にしがみつき、胸に顔を埋めた。冬獅郎も俺の背中に、腕を回してきた。
だんだん揺れがおさまっていくと、冬獅郎があ、と声をもらした。何かに気づいたような声に、俺はつぶっていた目を開いた。
冬獅郎
冬獅郎
てっぺんだ
外を見ると、左右に別号車が見えず、上にも暗い星空しかなかった。
太陽はもうあと少しで、海へ沈んでいくようだった。少しずつ暗くなっていくのが、はっきりとわかる。
獅子頭
獅子頭
で、夢ってなんだ?
俺は顔を上げ、冬獅郎の顔を見て言った。すると、冬獅郎も窓の外から俺に視線を移した。
冬獅郎
冬獅郎
あぁ、そうだったね
すると、冬獅郎は俺の顎に手を添え、ぐっと上に上げてきた。冬獅郎の顔も目の前に近づいてきて、鼻の先が触れそうになる。
冬獅郎
冬獅郎
動かないでね
獅子頭
獅子頭
え・・・、っ!?
言われた通りにするため、体に力を入れた。すると、冬獅郎の顔が近づいてきて、唇にやわらかいものが触れた。それは一瞬のことだったけど、俺にはとても長く感じた。
口元が自由になると、目の前の顔が離れていった。
冬獅郎
冬獅郎
好きな人と、観覧車頂上で口付け
獅子頭
獅子頭
・・・へ?
冬獅郎
冬獅郎
いやぁ、思いついた当時は絶対勇気出ないで、一つで終わると思ってたけど、もう一つもできちゃったよ
冬獅郎はにっこり笑って、「ライくんだからかな」なんて言ってきた。俺はなんか恥ずかしくなって、顔を隠すために、冬獅郎に抱きついた。
冬獅郎
冬獅郎
え、どうしたの?
獅子頭
獅子頭
うるさい!
冬獅郎
冬獅郎
耳真っ赤だよ?
獅子頭
獅子頭
ゆ、夕日のせいだ!
ちらりと見えた外の景色には、隣の車両が少し見えてきていた。本当にてっぺんだったんだ、なんて思った。
冬獅郎にしがみついていると、上から小さく声が聞こえた。思わず顔を少し上げると、冬獅郎は笑っていた。
獅子頭
獅子頭
何笑ってんだよ!
冬獅郎
冬獅郎
ふふっ。ライくん可愛いから
獅子頭
獅子頭
か、可愛くねーし・・・
上げた顔を再び下げ、冬獅郎の体に顔を埋めた。背中に腕を回し、できるだけ見られないようにした。冬獅郎の香りと温もりが感じられて、とても心地がいい。
顔をうずくめたまま目を閉じると、いきなり眠気が襲ってきた。
冬獅郎
冬獅郎
寝てもいいからね?
自分の背中にも腕が回され、ぐっと体が引き寄せられた。さっきからうるさい鼓動が、冬獅郎に聞こえてしまっていると思うと、なんか恥ずかしくなってきた。それでも眠気は襲ってきて、意識がどんどん遠くなっていった。
冬獅郎
冬獅郎
愛してるよ、誰よりも
冬獅郎の声が聞こえた気がしたけど、その時にはもう、俺は夢の中に入っていた。

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