「やっぱり、ここにおった」
いつの間にか眠ってしまったのか、気づけば空は茜色に輝いていた。
上から降ってきた声に目が覚めて、視界に映ったのは侑…?いや、違う。寝惚けてるのかな、と起き上がって目を擦っていると侑も起きたらしく、いつもより低い声で「なんやねん…」と零した。
「侑、先生探しとったで」
「…めんど」
だるそうに起き上がって、後頭部を掻く。
はっきりとした視界にはやっぱり侑に似た誰かがいる。
寝起きのせいか頭が回らない私に、彼が指をさして聞いた。
「侑、誰?これ」
「あなた」
「……あ、兄弟」
「せや」
彼の疑問に侑が不機嫌ぽく( 寝起きのせい )答えている最中、さっきいずれ会うと言っていた兄弟のことを思い出した。
なるほど、これだけ良く似ているということは双子なだろう。
そこでふと疑問が生じた。
「何であなたが鍵を?」
「こいつ生徒会長やから、何でももっとる」
「あほか、あれコピーしてくんの大変やってんで」
「生徒会長…」
何だか対照的すぎて、逆にしっくりくる。
綺麗に締まったネクタイや上までとめられたボタン。確かに、見た目からもその優等生感は伝わってくる。
じろじろと見つめてしまっていたからか、彼はまた小首を傾げて疑問符を浮かべた。
「あ、ごめんなさい」
「別にええけど。俺治や。侑の双子の弟」
「うん、そっくりだね」
「ビックリしやんの?」
「したよ」
「反応薄すぎやろ」
「だって、珍しいけど双子の人って世界にはいっぱいいるし」
「ぶっふ」
「…侑」
「な?おもろいやろ?」
今のどこに面白い要素があったのかはわからない。吹き出した侑をじとりと睨んだ治は不服うに口を尖らせてから、ため息をこぼし小さく笑った。
「好きしたええけど、先生んとこは行ってな。怒られんの俺やねんから」
「行かんわ、ボケ」
「今日の晩飯抜くで」
「……」
「ほなな〜」
押し黙った侑に、にっこりと満足気な笑みを残して、行ってしまった治。
侑がだれかに言われ負けているのを初めて見た。気に入らないのか眉を寄せて何も言わない。
そんな侑がおかしくて、思わず笑ってしまった。
「…なんや」
「最強の侑も弟には負けるんだね」
「うっさいわ」
何だか、治と話している時の侑はいつもと違う。きっとあれが素なんだろう。
気張るような人じゃないから、いつもの侑も素なんだろうけど、なんというか、気が抜けて柔らかく感じる。
少し安心している自分に苦笑を浮かべると、ぴんと額からまたいい音がして、弾かれた。
「…痛い」
「痛ないやろ」
あ、笑った。
いつもの呆れたような、全てを知っているような、とにかく何か色んなものを含んだ笑みではなく、ただ少し意地悪気に。そんな風に笑った侑は、初めて見た。
何か愛しいものを見るような目に、心臓がきゅう、と音をたてて痛くなる。
「…痛いよ」
「さよか、ほら行くで」
「え?私も行くの?」
「当たり前や」
先に立って伸ばされた、侑の手をとる。
ぐっと引かれ勢いに任せて立ち上がると、急だったからか少しくらりと目眩がした。
(( ぶっきらぼうな心音を刻む ))
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。