第5話

ぶっきらぼうな心音を刻む
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2017/09/03 14:17

「やっぱり、ここにおった」


いつの間にか眠ってしまったのか、気づけば空は茜色に輝いていた。
上から降ってきた声に目が覚めて、視界に映ったのは侑…?いや、違う。寝惚けてるのかな、と起き上がって目を擦っていると侑も起きたらしく、いつもより低い声で「なんやねん…」と零した。


「侑、先生探しとったで」

「…めんど」


だるそうに起き上がって、後頭部を掻く。
はっきりとした視界にはやっぱり侑に似た誰かがいる。
寝起きのせいか頭が回らない私に、彼が指をさして聞いた。


「侑、誰?これ」

「あなた」

「……あ、兄弟」

「せや」


彼の疑問に侑が不機嫌ぽく( 寝起きのせい )答えている最中、さっきいずれ会うと言っていた兄弟のことを思い出した。
なるほど、これだけ良く似ているということは双子なだろう。
そこでふと疑問が生じた。


「何であなたが鍵を?」

「こいつ生徒会長やから、何でももっとる」

「あほか、あれコピーしてくんの大変やってんで」

「生徒会長…」


何だか対照的すぎて、逆にしっくりくる。
綺麗に締まったネクタイや上までとめられたボタン。確かに、見た目からもその優等生感は伝わってくる。
じろじろと見つめてしまっていたからか、彼はまた小首を傾げて疑問符を浮かべた。


「あ、ごめんなさい」

「別にええけど。俺治や。侑の双子の弟」

「うん、そっくりだね」

「ビックリしやんの?」

「したよ」

「反応薄すぎやろ」

「だって、珍しいけど双子の人って世界にはいっぱいいるし」

「ぶっふ」

「…侑」

「な?おもろいやろ?」


今のどこに面白い要素があったのかはわからない。吹き出した侑をじとりと睨んだ治は不服うに口を尖らせてから、ため息をこぼし小さく笑った。


「好きしたええけど、先生んとこは行ってな。怒られんの俺やねんから」

「行かんわ、ボケ」

「今日の晩飯抜くで」

「……」

「ほなな〜」


押し黙った侑に、にっこりと満足気な笑みを残して、行ってしまった治。
侑がだれかに言われ負けているのを初めて見た。気に入らないのか眉を寄せて何も言わない。
そんな侑がおかしくて、思わず笑ってしまった。


「…なんや」

「最強の侑も弟には負けるんだね」

「うっさいわ」


何だか、治と話している時の侑はいつもと違う。きっとあれが素なんだろう。
気張るような人じゃないから、いつもの侑も素なんだろうけど、なんというか、気が抜けて柔らかく感じる。
少し安心している自分に苦笑を浮かべると、ぴんと額からまたいい音がして、弾かれた。


「…痛い」

「痛ないやろ」


あ、笑った。
いつもの呆れたような、全てを知っているような、とにかく何か色んなものを含んだ笑みではなく、ただ少し意地悪気に。そんな風に笑った侑は、初めて見た。
何か愛しいものを見るような目に、心臓がきゅう、と音をたてて痛くなる。


「…痛いよ」

「さよか、ほら行くで」

「え?私も行くの?」

「当たり前や」


先に立って伸ばされた、侑の手をとる。
ぐっと引かれ勢いに任せて立ち上がると、急だったからか少しくらりと目眩がした。



(( ぶっきらぼうな心音を刻む ))

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