第9話

わるいこだって叱ってね
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2017/10/20 11:04



目の前には楽しそうに話す、先日友達になろうと言ってきた彼女。
どうして今二人きりかといえば、放課後「今日部活無いねん!遊ぼ!」と半ば強引に連れてこられたから。
今日は侑も来てないし、会う約束もしてない( いつもしてないけど )からよかったけど、この子と遊ぶよりも侑に会いたかったのが本音。


「…あなたちゃんて、ほんま頭ん中宮くんの事ばっかやんな」

「え?」

「今も宮くんのこと考えとったやろ」

「…えっと、」

「長島りく」

「長島さんは」

「りくでええよ」

「…りくは、どうして私と友達に?」

「だっておもろいやん。最近あんたのことミステリアス少女ゆうて騒いどる子多いで。知っとった?」


ミステリアス少女?なにそれ。
「あたしもあなたて呼ぼ~」なんて変わらず楽しそうに、ストローでグラスの氷をカラカラと音を立てながらかき混ぜて遊んでいる。
りくは面白いと言ったけど、何がなのだろう。ミステリアスなんて言われている私が?


「あ、ちゃうで。確かにミステリアス少女とかあだ名通り越して異名みたいなっとっておもろいけど。あんたら二人のこと知りたなっただけ。」

「…知らない方がいいよ」


本音を言うなら、知られたくない。私たちのことは私たちだけが知っておきたい。共有者なんて私と侑だけでいい。
ケラケラと笑いながら「何でーな」なんて聞いてくるりく。きっと理由なんてわかってるんだ、そういう顔をしている。意外と維持の悪い子だなと思った。


「あなたは宮くんのこと好きやないんやろ?宮くんも好きやなくて、でもお互い想い合っとる。ようわからんけど、ええなあ思うねん。そうゆうの、恋人とか、親友とか、くだらん名前の付いた関係よりよっぽど憧れる。自分らは多分、そんなんよりも脆くて儚くて、強いなんかで結ばれとんねん。見とったらなんか気持ちがゾワゾワする。」

「…それは、」


それは、なんだろう。出した言葉の続きが見当たらなくて俯いた。

嬉しかった。正直、嬉しかったんだ。気になんてしてなかったのに、してなかったはずなのに、私と侑を見ては変なことを言って噂を広めるクラスメイト、他クラス、他学年の人たち。
どうでもよかった、私には侑がいて、侑がいてくれるだけで幸せで、世界が輝いていた。

だけどどうしてか、今嬉しくて泣きそうな自分がいる。

どうして、


「…あなたは強くなんかないんやなあ」


そうだよ、強くなんてない。

小言や噂なんて嫌でも耳に入ってくる。
黒尾曰く東京にまで届いている宮侑という「悪名」。
侑に良い印象を一つも持っていない人達からすれば当然なのかもしれないけど、私たちを見ては「騙されとるだけやろ」なんて、「あなたちゃん、可哀想」違う。だれも侑と私を認めてくれない。もちろん認めなくていい、他人からの評価なんていらない。だから、


侑を否定しないで。


向かいに座っていたりくが隣に来てそっと頭を撫でてくれた。
俯いたままの私の目には涙が溜まってる。落ちないように、落とさないように唇を噛んで、何も言わないまま数分が経つ。
落ち着いた私を確認して、りくはまたケラケラと笑った。


「あなたは強くないけど優しいやっちゃなあ」

「私じゃないの、優しいのは侑なの。あいつはいつも私に居場所をくれる。暖かくて、心地いい居場所を」

「さよか。ほんならどっちも優しいやつや」


どうでもいい、他人にどう思われようが、なんて言われようが。
だけど悔しかった。
侑が何をして恐れられているのかなんて知らない。だけど私の知ってる侑は、不器用で乱暴で優しくて、皆が持っていないものを持ってる素敵な人なんだよ。
わかってなんて言わない、わかってなんて欲しくない、だけど侑を否定されるのは、悔しくて、悲しい。

矛盾してることはわかってる。
きっとこんなことを思ってるって、侑が知ったら隣にはいさせてくれないことも、わかってる。


「あんたらはそのままでええねん」

「うん」

「やいのやいの言うてる奴らなんか気にしな」

「うん」

「あたしは好きやで、あんたも、宮くんは怖いけど、悪い奴とちゃうんは知っとる。学校の連中がゆうようなやつやったら、今頃あなたもあたしもここにおらん。」


(( わるいこだって叱ってね ))

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