第11話

溶ける魔法は夢の底
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2017/10/20 11:07

「怪我してる」


よく見ると顔にも体にも色んなところに傷がついてる。
やっぱり喧嘩だったんだなあと思いながら覗き込んで見ていると、手を取られて頬のそれに添えられた。


「触ってええで」

「…痛くないの?」

「こんなん痛ないわ」

「ねえ、なんでわかったの?治のこと」

「…朝治の機嫌がよかったって、おかんがゆうとった」

「それだけ?」

「前からちょいちょい治、あなたの話しとったから」


それだけで気づいたのは二人が双子だからか、単に侑の勘が鋭いからか。
親指で傷をなぞりながら、ふうんと返す。


「侑に何言われたん」

「べっぴんさんやなあって言われたよ」

「なんやそれ、おもろ」

「ふふ、ほんとに」


あほちゃうか、って言いながら、 眉を寄せていることに気づく。頬が緩んで空いた手で口元を抑えると「なんやねん」って睨まれた。


「…やるわ」

「え?」


突然手を離したかと思えば、自分の首の後ろに回してつけていたネックレスを外して、そのまま私の首につける。
突然過ぎて疑問符を隠せない私は顔を上げて侑に向くと、目が合ってしまって離せなくなった。


「なんや」

「くれるの?」

「やるゆうたやろ」

「…ありがと」


なんだか照れくさくなった。胸元で光る小さなリングのついたネックレスが、まるで侑みたいで、ここにいるようだと一人で思ってしまったから。
隠すように視線をそらしてネックレスを見る。侑から貰ったものは多いけど、形のある物をもらったのは初めてだった。


「お前はいっつも幸せそうやなあ」

「うん、侑がいるからね」

「…せやな。俺もお前に会うために生まれてきたんや思うわ」

「!」


それじゃまるで愛の告白だ。そんなことを微笑を浮かべながら、空気でも吐き出すように言うもんだから、こっちが恥ずかしくなる。だけど侑の言葉はそれ以上の質量を持っていて、優しく私に降り注ぐ。嬉しくて、涙が出そうになった。

いつの間にか絡めていた手が、温かくなっていく。細く差し込んだ光が侑を照らして、キラキラと輝いた。


「私もきっとそうだよ」

「…さよか」


それは次第に私も照らして、もう夕方であることを知らせた。
日が暮れた頃、「帰ろか」と侑に手を引かれて長い一本道を歩いた。ついたばかりの蛍光灯の光が私たちの影を揺らしながら、見送る。
長いのに短く感じた帰り道、侑が時々眉を寄せては「治に近づいたあかんで」って言ってきた。
その度私は「侑のものだもんね」って返していた。



(( 溶ける魔法は夢の底 ))

この時の私はまだ知らない。

こんな小さな幸せさえ望めない日が、もうすぐそこまで来ていたことを。

これが永遠ではないことを。

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