第12話

空っぽの歌( R )
913
2017/10/20 11:52

次の日の朝、家の前で侑を待っていると、とんとんと肩を叩かれた。
「なあ、自分宮のツレやろ?」男の低い声が後ろから聞こえたと思えば、一瞬で視界が真っ黒になって、そこからは覚えていない。

気づいたのにまた視界は真っ暗で、ぼーっとする頭でなにここ、って考えながら体を動かそうとしたところで、手足が動かないことに気がついた。


「お、起きたか」


さっき背後から聞いた声とはまた違う、男の声が目の前から落ちてきた。目は布かなにかにあてられて見えないけど、声のした方に見上げれば周りから「ひっひ」って笑い声が響いた。


「自分宮の女なんやってな?」


そこでやっと理解した。動かなかった頭が急に回転を始めて今の状況を知らせる。ああ、私拉致られたんだ。
柱かなにかにガチガチに拘束された体と、目隠しと、それから居心地の悪い男達の声に納得する。


「だからなに」

「ひゅ~。威勢のええ女は嫌いやないで。せやけど」


パァンッ
冷たい音が響いて、頬が痺れる。口の中の鉄の味が不快でペッと吐き出した。
右に向いた顔をそのままに、睨みあげても視界は暗いままで、向こうには見えていないため威嚇にもならない。
小さく舌打ちをすると、また逆の頬を殴られた。


「気に食わんわ、その態度」

「私をどうする気」

「…せやなあ、本来の目的は宮の野郎を脅して仕返しするつもりやったけど」

「……」

「ここで痛めつけてあいつの悔しい顔見んのも最高やな」

「…どっちも嫌」

「あ?」

「どっちも侑に迷惑がかかるでしょ。帰るからこれほどいて」

「……ぶっ」

『ぶはははは!』


何が可笑しかったのか、いきなり吹き出したと思えば大笑いが高く響く。
そしてしゅるりと音がして、視界が明るくなった。
景色がはっきりしないまま、顎を掴まれて上を向かされ首が痛む。
じんわりと映り出した男は見たことあるようなないような、そんなやつらばかりがにやにやと笑いながら私を見ていた。


「今の状況わかってるん?」

「……」

「おい、だれか写真撮っとれ!」

「おー、ええで」

「ちょ、なにすっ」

「お前も災難やなー、侑にさえ関わらんかったらこないなことに巻き込まれんで済んだのになー」


口角を上げながらそう言って、制服のボタンとボタンの間に手を入れる。急に恐怖が襲ってきて、全身がぶるりと震え血の気が去ったのがわかった。


「お、ええ顔やん」

「やめて…」

「えーやん。侑より良ォしたるで」


そしてその手を振り下げて制服を切り裂いた。ボタンが飛び散って、落ちる映像がスローモーションに映る。

やばい、助けて、侑、


「あ、つむ…」

「…うっとい名前出してんちゃうぞ!」


声を荒らげて、次はキャミソールを破かれた。肌を隠しているものはブラ一枚。男達の視線に恐怖感が増す。

侑、助けて、そう思った瞬間、私は理解してしまった。

ーーああ、これが私の望んだ世界だったんだ、って。

馬鹿だ、私。いつも通りが嫌で、退屈で、そうじゃない侑に憧れた。
だから一緒にいて、次第に惹かれて、好きとか大切とか、言葉では表わせないくらいの存在になっていた。
だけど、私に侑のような力があるわけじゃない。

私は、無力だ。何も出来ない。侑と一緒にいたからって、私自身が強い訳では無い。調子に乗ってたんだ。侑に迷惑をかけていいわけない。


「あ?急に大人しくなりおって、覚悟したん?それか好きやったりして?」

「抵抗したってこの状況じゃ逃げられないってわかっただけ」

「潔ええやん。もっと嫌がってくれへんと面白ないのに。…まあええか。おい、カメラ、」


そう言いながら、後ろに立っていた男に手を伸ばしたその時、ガシャーン!!、と物凄い音が響いて、さっきまで薄笑いを浮かべていた男達が静まり返る。
そして音の響いたシャッターの方に振り返り、緊張感が走った。


「意外と早かったな」

「…やな。おい、こいつ立たせ!」


またガシャンッ、って音が響く。どうやら外からここを開けようとしているだれかがいるようで、男達は急いで私を手首の拘束だけ残し柱から解き無理やり立たせた。


「こっち来い!」

「痛っ」


頭を掴まれ引っ張られる。木の簀子を積み上げた場所に押し付けられて、片方は拘束された手を抑えられ、片方は下着の間に、


「い、や…!」

「覚悟決めたんちゃうかったん」


スカートのホックを外され、緩くなったそれが地面に落ちる。
耳元で響く男の声が、体に触れる手が、全てが不快で、怖くて、もう何も考えられない。
何も考えられない頭に浮かんだのは、侑。助けて、そんなこと、言えなかった。

泣きたくなんかないのに、あふれて頬に流れる。気づいた男が、薄く笑みを浮かべてそれを舐めとった。


「えーやん、そそられる」


バゴォオンッッ!!!ーー続いていた音が一層増して響いたと思えば、光が差し込み、止んだ。
あの大きなシャッターを蹴破っただれかがそこに立っていて、男達は低く身構える。
背中に光を浴びそこに立っていたのは、侑だった。


「あ、つ」

「お前ら、何してん」

「早かったやん、侑。もうちょっとでお前の女抱けたのに」

「そんな女、知らんわ」



(( 空っぽの歌 ))


そう言って肩で息をする侑の強い瞳が、私を捉えて離さない。助けて、そう叫びたいのに声の出し方を忘れてしまったのか、何も言えなかった。

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