第19話

風邪
1,685
2017/10/29 03:32
おかゆを食べ終わり、鈴は眠ってしまった。
スー、スー、とたてる寝息は、病状が悪化してないことを教えてくれた。
もちろん、私はもうそろそろ帰った方がいいと思ってる──鈴もひどくないみたいだし──けど、帰れないでいる・・・・。
あなた

帰りたい・・・

私は寝ている鈴に腕を捕まれ、部屋から出ること──ましてや、ベッドから離れることさえできていないのだ・・・。
鈴
ん・・・あなた・・・
私はこんなに嫌なのに、なんでコイツは幸せそうな顔してるんだ!もう!
眠っているのに、名前を呼ぶほど好きなの?アホなの?
鈴
あなた、ちゃん・・・
・・・一瞬可愛いと、心のどこかで思ってしまったのが悔しい。調子狂うなぁ!
自分に呆れながら、私は寝ているコイツを見た。起きる様子は──全くない。体を譲ったり、声をかけても、起きるわけがなかった。
あなた

りーん・・・りーんー!

鈴
んん・・・
この野郎・・・。
私は起こすのは諦め、半ば強引に腕を引っ張った。それでも、起きてるみたいに腕をつかんで、離してくれなかった。
あなた

ちょっと!起き──

鈴
行かないで・・・?
あなた

え・・・うわっ!?

私が抵抗が止まると、鈴はつかんでいる腕を引っ張り、私をベッドの上に引きずり込まれた。
本当に寝ているのだろうか・・・?
鈴
あなた・・・
いつもはちゃん付けなのに、今だけ呼び捨てとは・・・・。
すると、私をベッドに引きずり込んだ鈴は、背を向けていた私の体を、後ろから抱きしめてきた。
驚きで声も出ない上に、体も動かなかった。でも、ココロのどこかで、心地良いと思ってしまった。
鈴
あなた・・・好き・・・
好きになっちゃ、ダメだ──自分に頭で言い聞かせ、私は鈴の腕から抜け出した。
あなた

・・・私は、キライだ

自分のココロに従わないで、部屋から出る前にそう呟いた。

次の日。私は学校を休んだ。
本当は熱がないけど、風邪をひいたことにした。真理のこともありそうだし、今はあの教室にいたくない・・・。
布団にくるまっていると、部屋のドアから声が聞こえた。
お母さん
母さん仕事行ってくるけど、あなた一人で大丈夫?
あなた

大丈夫。行ってらっしゃい

家族にも、風邪をひいたと言ってある。
母さんが出かけ、家は自分一人になった。車の出た音がしたのを確認して、私は部屋から出た。
あなた

お腹すいた

リビングに下りると、おにぎりが2つと、メモが一つ置いてあった。

『食べれたら食べてね。あなたへ』

ありがたい。
私はおにぎりを一つ手に、テレビの前のソファーに座った。
おにぎりを一口食べると、部屋から持ってきたスマホが鳴った。
一番嫌なやつからだ。

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