おかゆを食べ終わり、鈴は眠ってしまった。
スー、スー、とたてる寝息は、病状が悪化してないことを教えてくれた。
もちろん、私はもうそろそろ帰った方がいいと思ってる──鈴もひどくないみたいだし──けど、帰れないでいる・・・・。
私は寝ている鈴に腕を捕まれ、部屋から出ること──ましてや、ベッドから離れることさえできていないのだ・・・。
私はこんなに嫌なのに、なんでコイツは幸せそうな顔してるんだ!もう!
眠っているのに、名前を呼ぶほど好きなの?アホなの?
・・・一瞬可愛いと、心のどこかで思ってしまったのが悔しい。調子狂うなぁ!
自分に呆れながら、私は寝ているコイツを見た。起きる様子は──全くない。体を譲ったり、声をかけても、起きるわけがなかった。
この野郎・・・。
私は起こすのは諦め、半ば強引に腕を引っ張った。それでも、起きてるみたいに腕をつかんで、離してくれなかった。
私が抵抗が止まると、鈴はつかんでいる腕を引っ張り、私をベッドの上に引きずり込まれた。
本当に寝ているのだろうか・・・?
いつもはちゃん付けなのに、今だけ呼び捨てとは・・・・。
すると、私をベッドに引きずり込んだ鈴は、背を向けていた私の体を、後ろから抱きしめてきた。
驚きで声も出ない上に、体も動かなかった。でも、ココロのどこかで、心地良いと思ってしまった。
好きになっちゃ、ダメだ──自分に頭で言い聞かせ、私は鈴の腕から抜け出した。
自分のココロに従わないで、部屋から出る前にそう呟いた。
次の日。私は学校を休んだ。
本当は熱がないけど、風邪をひいたことにした。真理のこともありそうだし、今はあの教室にいたくない・・・。
布団にくるまっていると、部屋のドアから声が聞こえた。
家族にも、風邪をひいたと言ってある。
母さんが出かけ、家は自分一人になった。車の出た音がしたのを確認して、私は部屋から出た。
リビングに下りると、おにぎりが2つと、メモが一つ置いてあった。
『食べれたら食べてね。あなたへ』
ありがたい。
私はおにぎりを一つ手に、テレビの前のソファーに座った。
おにぎりを一口食べると、部屋から持ってきたスマホが鳴った。
一番嫌なやつからだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。