第26話
彼氏、彼女
たしかに言った。神様にごめんなさいって言ったあと、正直に言った。今思い出すと、すっごく恥ずかしい・・・!
声のボリュームがだんだん落ちたけど、ちゃんと認めた。
すると、やっと鈴は私の方へ歩いてきた。
私の目の前にきて、私の手を握って言った。握られてる部分が、すごく熱く感じる。
顔を上に上げて初めてわかったけど、鈴の顔は笑っていなかった。ただ真剣な目で、私を見ていた。
逃げるのは辞めた。逃げたところで、絶対鈴には捕まるんだ。
私の返事の直後、鈴の顔はいつもの笑顔になっていた。この笑顔も好き。何回も見たい。
鈴は私に抱きついてきた。前までちょっと嫌だったけど、今はとても心地いい。
周りに誰かいるかもしれないのが気になって、私は鈴の体を押し、離れた。幸い人は誰もいなかった。
私たちは、横に並んで歩いた。
今回は私から、手を繋いでみた。すると、鈴の大きな手がギュッと、私の小さな手を握ってきた。
一緒に帰れるだけで、私は十分に感じる。誰よりも鈴の近くに居れればいい。
彼氏と彼女っていう言葉が、なんか新鮮だ。
調子に乗りすぎなのは、ちょっと残念だ。
いつもの変わらない会話をしながら、この日は家に帰った。
寝る支度をし、自分の部屋に入った。
ベッドへ横になりスマホの電源を入れると、一件のメッセージが送られていた。もちろん、鈴から。
既読の表示は数秒で付き、送られてきたのは可愛いペンギンがジャンプしているスタンプ。可愛い・・・。
私は『おやすみ』と送り、電気を消した。
目覚まし時計が鳴り、明るくなった外を見る。今日は運がよく、晴れだ。
制服に着替え、部屋を出る。リビングルームには、食事の支度をするお母さんの姿があった。お父さんは仕事に出たみたい。
ふりかけのかかったお米と、いちょう切りの大根が入った味噌汁が出てきた。プラス、焼き魚と卵焼き。
目の前へ並べられた途端に、いい匂いがした。
前とは変わらない朝。変化があるとすれば、登校中のみ。
いつもは特に何も感じなかった登校が、今はちょっと楽しみだ。
食器を洗い場に運び、バッグを取りに部屋へ戻った。
今日は教室に行って、ちゃんと勉強する。そう心に決め、教科書を入れていった。