第3話

後悔
1,362
2017/12/01 02:47
「あなたおはよーっ」


「あ、おはよー」


「今日早いじゃんっ。」


「まぁねぇ〜今日はクラスマッチだもんっ!

楽しみで早く目覚めちゃった〜」


「そかそか!」


朝7時半、美織が教室に入ってきて私に声をかけた。


授業開始は8時20分、私がいつも登校するのは8時くらい。


だから私にしてはすごく早い。


「あ、美織ー、部室に着替えに行こ。」


クラスTシャツを持って部室棟へ。


“軽音部”と書かれたドアプレートのかかった重いドアを開ける。


私と美織は同じ部活。


ちなみに一緒にお昼を食べてる亜莉沙と仁菜も同じで4人でバンドを組んでる。


美織がドラム、亜莉沙がキーボード、仁菜がベース、そして私はギター。


「はぁー、入る度に思うけど部室狭っ」


「あなた、悲しい事言わないで。

しょうがないよ、ウチら4人しか居ないんだからさ。

部員数で部室の大きさ決まっちゃうんだもん。」


「廃部になってないだけマシか〜。」


そう、軽音部に所属してるのは4人だけ。


だから部室も4畳くらい。


それに棚とか小さめのテーブルとか置いてあるから人が座れるスペースはもっと狭い。


まぁ、活動場所は音楽準備室なんだけど。


去年まで3年生の先輩もいた。


だけど一個上の学年は一人もいなくて、1年生も誰も入らなかった。


私たちが3年になったら入ってくれる新入生はいるんだろーか…。


「今日さー、最初にあたるの1年生だよね?」


「んぁー、そーだね、まぁ、なんとかなるでしょー。

だってあなた、やってたんでしょ?」


「いや、小学生の時ね?

中学は違う部活だったし。」


私達の出る種目はバレー。


一応やってたんだけど、中学でやってない分ブランクはあるし、習ってて気づいた、私には運動のセンスがない。


美織が運動神経いいから、頼みの綱だぁ。


「古賀くん、なんの競技に出るの?」


「話急に変わるねぇ…

さぁ、何でしょう。」


古賀くん、古賀将生(こがまさき)くんって言うのは美織の好きな人。


隣のクラスの人で女子とあんまり話さない(らしい)。


だから美織、LINEではいっぱい話すのに、直接は話したことないんだって。


「教えてくれたっていいじゃんケチ〜!

いいもーん、メンバー表見るから。」


「将生の競技知って何する気?」


「え?見に行くんだよ?」


「へぇー?」


何その他人事…。


「美織も一緒にだよ?」


「…ん?」


またぁ、とぼけちゃって。


分かってるくせに。


口元が笑ってるよ。


「そりゃ美織が行かなきゃ意味ないでしょ。

私一人で見に行ってなんの得になるってのよ。」


私は…優人の試合してる所、見たいけど…そんなの言い出せない。


「それ言ったらウチだってなんの得になるのー?」


「好きな人見に行って応援したいもんでしょーが。

話すきっかけになるかもよ?」


「無理無理無理無理無理無理無理無理。」


「いや“無理”多いから。

よく噛まずに言えました!

とりあえず、一試合目なんだし、まずは私らが頑張んなきゃね!」


うん、うまい総括!





「…ーありがとうございましたっ。」


「うぅー、強すぎ!」


「6人中4人膝サポしてた…ありゃ元女バレだな。」


結果、25対16で負け。


やっぱ中学の時バレー部だった子は強いよね。


アタックバンバン打ってくる。


一方私らは元バレー部0人。


今バレー部の人はいるけど、自分の部活の競技には出れないからね。


「もう応援に切り替えるしかないねーっ」


「あと写真!

撮りまくるよ!」


そう言って亜莉沙がスマホを取り出し、腕を伸ばす。


「あっ、私ピンクがいいーっ!」


「ちょ、反応しないんですけど!」


「待って、前髪変…」


「もー腕疲れた!

早くしてーっ!」


何枚も何枚も、とりあえず撮る。


絶対後で見たらいらない写真も中にはあるんだろうけど…。


ふと斜め上を見るとギャラリーに優人がいるのが見えた。


そーいえば、卓球の欄に優人の名前あったっけ…。


そして、対戦相手は…


「あれ、あそこにいんの樹くんじゃない??」


私はギャラリーを指さす。


背番号98番。


仁菜と樹くんの記念日。


「あー、そーだねぇ。」


「仁菜!見に行こうよ!」


私は仁菜言う。


グットチャンス!!!


仁菜の彼氏、永野樹(ながのいつき)くんの応援について行く、という口実で優人の試合見に行けるじゃん!


「んじゃぁ、行くーっ。

対戦相手私たちのクラスだよ〜、亜莉沙と美織どーするー?」


「んー、正直ウチらのクラス興味無いからなぁ…」


苦笑いで言う美織。


「じゃぁあたしと美織で古賀っちの応援行ってくるわぁ〜」


「え、古賀くんも今やってるのー?

ウソーっ!

そっちも見たい!」


まぁ、私が1番見たいのは優人なんだけど…


「え!あなたついてきてよ〜、一人じゃ恥ずかしい…」


んまぁ元々卓球行くつもりですよ?


だけどあくまでも、私には好きな人がいないってことにしてあるからね…


「しゃーない!

今回古賀くんは諦めて、樹くんの応援しに行きましょう!」


ヤバい、私完全に自分作ってる…。


美織と亜莉沙は古賀くんを見にグランドへ。


メンバー表には“サッカー”の欄に書いてあった。


「さて、私達も行こっ!」


楽しそうな仁菜に連れられ、体育館入口近くの階段を上がる。


1チーム4人、2セット先取で勝ち。


ダブルスだから1セットに二人ずつ交代で出る。


ちょうど優人が出てるとこでよかった〜。


「今どんな感じ〜?」


近くにいたクラスメートに聞いてみる。


「1セット目取られちゃって、今2セット目。

一応、勝ってるっぽいね〜!

頑張れーっ!!」


なるほど…。


「そーいえば、仁菜、樹くんって元卓球部なんだったよね?」


「そーだよ〜っ!」


さすが元卓球部、上手い。


でも8組も負けてない!


「よっしゃぁっ!!」


スマッシュが決まってガッツポーズをしながら喜ぶ優人。


「ナイスッ!

頑張れーっ!」


応援なんてしてみたり。


「8組ファイトーっ」


仁菜も声を出す。


「おやおや〜?仁菜さんじゃないですかぁ。

8組の応援してていいのー?」


仁菜が樹くんと付き合ってることは同じクラスの女子ほとんどが知ってる。


「いいのいいのっ!」


仁菜もそう答えるけど、樹くんが気づいて手を振ってきたらちゃんと振り返す。


声に出してないけど口パクで“がんばれ”って言ってるの、丸分かりですよー?


10対9で8組が勝ってる。


あと1点…!


お願い!勝って!!!


そう願い、両手をぎゅっと組んだ。


ーカコッ


樹くんの回転のかかったサーブ。


優人も返したけれど変な方向へ飛んでいってしまった。


10対10


デュース!


「頑張ってー!」


カコッカコッと音を立てて、ラリーが続く。


「っしゃ!」


…先制したのは樹くんのチーム。


ヤバいっ!


ーカコンッ


「しゃぁーっ!!!」


「ゲームセット!

勝者、1組。」


「「ありがとうございましたーっ」」


最後は樹くんがかっこよくスマッシュを決めた。


いいとこ持ってくなぁ。


「お疲れ〜おめでとっ」


仁菜が樹くんに駆け寄る。


ホントに仲いいなぁ。


いいカップルだよ。


…私も、優人にお疲れ様って言いたいな。


でも、勇気が出せない。


“おつかれ”


その四文字、たった四文字がどうしても言えない。


変に思われそう、いつもそう思ってしまう。


今日もこのまま、話せずに1日が終わるのかな…。


そうやって悩んでたら優人は私の横を通り過ぎて、階段を降りていった。


後悔。


同じクラスTシャツを着てるのに、“おつかれ”も言えない。


冷たいヤツって思われたかな?


「あなた〜!

行こっ?」


樹くんと話し終えた仁菜に声をかけられ、私らも階段を降りる。


「はぁ…」


「どーしたの、あなた?」


「え?」


「ため息なんかついて、らしくないよ?

なんかあった?」


仁菜…。


心配そうな顔。


こーゆーの、じーんとするよね。


心配してくれて、嬉しい。


「…ううん、なんもないよっ!

いやぁ、一試合目で負けちゃって味気ないなぁって思っただけ!」


そうやって、ウソの答え。


ちゃんと笑顔、出来てるかな?


「だよねぇ…

2時までは帰れないから暇だーっ!!!」


ごめんね、仁菜。


あぁ、素直になりたい。


こうやってまた、


後悔。

プリ小説オーディオドラマ