話すきっかけが欲しい、と願ったからなのか、2日後の木曜日にその時はやってきた。
「あきっ!今日は残ってやってくんだもんね?」
昨日確認した、彼氏が部活で一緒に帰れないから今日と明日は放課後勉強してくんだって。
「やってくよ〜っ
帰りは唐揚げ食べに行くんだもんねっ!」
これも昨日の約束。
駅までの途中にあるコンビニで買い食いしてくの。
高校生の特権だよねっ。
優人、昨日も実は残って勉強してた。
残ると思ってなかったから、ちょっとビックリしちゃった。
でも、一言も話すことなく帰った。
今日こそ話したいっ!
あれ、私いつからこんなにこの恋に積極的になってたんだろ…。
由望と付き合ってるかもしれないのに…。
「…何書いてんの?」
放課後、あきが後ろの黒板にチョークで文字を連ねてる。
「今日のやることっ
私、ちゃんと書いとかないとやらない人だからさ〜…」
なんか色々書いてるからその上に“あきのやることリスト”ってタイトルを書いておいてあげた。
あっ、今日も優人残ってくんだ〜
机の上に教科書を出した優人を見てそう思う。
「あー、ホントは一緒に帰りたかったのにっ!!
なんでこんな日まで部活部活ってーもうっ!」
彼氏に対して少し怒り気味のあきさん。
ガッと椅子を引いて座る。
その後に私も席につく。
「…まぁまぁ、怒る相手がいるだけいいと思ってよ〜。」
私には居ないんだからさ…。
「そーだぞっ。」
へっ…。
優人が…共感してくれた…。
…ってことは、由望とは付き合ってないってこと、だよね?
ヤバい、少し嬉しいかも…。
それに、私たちの会話に入ってきてくれたことも嬉しい。
ルンルン気分で私は…世界史やろーっと。
苦手なんだよね〜…。
今日残ってるのは5人、優人、あき、私、そして渡瀬大輔(わたせだいすけ)くん、久本花梨(ひさもとかりん)。
それぞれ自分の学習をしてたんだけど…
「あーもーマジわかんない!!」
…っびっくりしたぁ。
花梨がそう大声を出したのは開始から30分後。
「なにどーしたの、急に大声出して〜」
「世界史意味わかんない覚えらんない…」
花梨の手元には先生から配られたプリント。
あ、ちょうど今同じとこやってる〜。
「ねぇ渡瀬くん、雑談っぽくなんか話してよ。
ほら、楽しい話の方が頭に入ってきやすいじゃん?」
「オレ?
いいけど、どこやってんの?」
そう言いながら渡瀬くんは席を移動、花梨の横、美織の席に座る。
「私も聞きたい!」
世界史が苦手な私にとっても好都合。
「どこがいい?」
「んじゃぁアメリカ独立戦争らへん?」
「おっけー」
そっから流れを私たちの質問を挟みながら話してくれた。
「…なるほどね」
「んでそっから義勇兵が〜
…ちなみにその義勇兵として独立側に加わったのは?」
うっ…そんなのわかんない…。
「コシューシコとラファイエット。」
うぉ。
私たちが悩んでいると急に会話に男の子の声が交ざった。
「優人が答えちゃダメでしょー」
渡瀬くんが笑いながら言う。
優人も渡瀬くんも世界史は得意みたい。
「いやでもどっちにしろ私には分かんなかったし〜…」
ってもうテスト間近なんだから分かってなきゃダメか…。
すると優人が席を立って渡瀬くんの前の席の椅子に座った。
優人も一緒になって教えてくれるみたい。
やった!話せるじゃん!
そっからあきもちょくちょく参加して、5人で盛り上がってた。
途中、話が脱線したりもしたけど。
「大輔がデートでいきそうな場所考えんの楽しそうじゃね?」
って、どんな話からそうなったのか…優人が楽しそうに言い出した。
私、あんまり積極的に自分から話したりはしなかったけど、途中優人が「なぁ?」って同意を求めてくれたりして嬉しかった。
やっぱり、数人集まれば私も優人と会話ができるんだな…というか、してくれてるって言った方が正解かもしれないけど。
「…じゃあそろそろ帰りますか〜…。」
「そだね…てか外暗っ!」
昨日より長く、今は6時半。
「あ、私とあなたで唐揚げ食べに行こーって話してたんだけど一緒に行く?」
教材を片付けながらあきが言った。
「あーごめん、塾だわ〜…なかったら行けたのに!」
花梨は残念そう。
「あーオレ行こうかな」
渡瀬くんがそう言う。
「優人は?」
「唐揚げってどこ?」
「スグそこのコンビニだよっ。」
「あー、んじゃ行くわ。」
あ、そっか、優人はこの辺に住んでる(らしい)から、あんまり遠くだと帰って面倒だよね。
でも来てくれる、嬉しいっ!
「…あー、オレ電車ヤバいかも…。」
そう渡瀬くんが言い出したのは昇降口を出た時。
確かに教室からここまでゆっくり歩いてたら割と時間が経ったしまった。
廊下を歩いている間、少しだけ優人の横にならべた。
すごくドキドキして、ここが彼女のポジションなんだなーって、優人に想われてる人を羨ましく思った。
「あ、オレ靴部室じゃん。」
優人が言う。
あきが時計を確認する。
「私、優人が部室まで行くの待ってたら電車乗れないかも…」
ってな理由で、結局二人。
ちょっとガッカリ…。
「もうちょっと早く出てくればよかったね〜。」
「だね。
じゃあ明日は早めに出よっ。
そしたら二人もこれるし…。」
あきと2人、唐揚げを頬張り歩きながら話し合った。
今日は楽しかったなぁ〜っ。
優人とも沢山話せた。
これが毎日だったらどんなに楽しいんだろう。
それが出来るのは親しい友達か彼女。
私はどちらにも程遠い。
そう思ったらふいに泣きたくなった。
堪えるためにグッと上を向く。
綺麗な星が空いっぱいに輝いていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。