第13話

今日の嫌なこと
973
2017/12/01 03:28
「弘樹…」


「よっ!あなた。

久しぶり。」


私の目の前立っていたのは古谷弘樹(ふるやひろき)。


私の…初カレ、つまり元カレ。


一個下の後輩で、コクられて付き合ったけど3ヶ月目を過ぎたところで振られた。


当時私は高校生、弘樹は中学生。


頻繁に会えなくなったこと、私が恋愛に不慣れだったことが振られた原因だと思う。


別れてから、ずっと会ってなかったのに…。


久しぶりすぎて緊張する。


「なんで…ここに?」


今まで同じ電車になったことなかったから、安心してたのに…。


ていうか、なんで普通に話しかけてくるの…?


ズキズキ、頭の痛みを感じる。


「えーまぁ、テストだったからね。

そっちも?」


「うん。

だけど弘樹、学校徒歩じゃん。」


「あぁ、ちょっと遊びに。」


弘樹は私とは違う高校に進学した。


もっと近場の高校。


私の友達の大半もその高校。


私は少し離れてるところに通ってるから…。


「なんか、こうやって話すの懐かしいね。」


「…そうかな?」


私の返事はあっさり。


だって、話すことなんて何も無いじゃん?


私は正直そんなに話したくない。


あまり良い思い出がないから。


最後も、ケンカ別れだった私たち。


弘樹は話題を探してるみたい。


「彼氏、出来た?」


「…うるさいなぁ。

出来てないよ。」


まぁ、一人いたけど。


それも、弘樹の部活の先輩にあたる人だけど。


そんな元カレに話すようなことでもないので敢えては言わない。


隠すわけでもないけど、黙っておく。


「オレもさぁ、いたんだけど別れちゃった。」


へぇ、一緒じゃん。


「なんで?」


「なんかほっといたら振られちゃったー…」


「へぇ…」


“ほっとく”って言い方、下に見てるみたいでちょっとムカつく。


いや、弘樹の元カノ知らないけど。


「何、聞いたくせに興味なしかよーっ。」


そう言いながら私の右隣に座る。


…なんで!?


私が気にしすぎなだけなのかなぁ?


みんなは元カレとかと普通に話せるのかな?


私は気まずくて、ちょっと無理。


よく少女マンガで「友だちに戻ろう」とか言って振るときあるけどさ。


付き合って、お互い色々知って、悪いとこも見えて、ケンカして、それでもって何も知らなかった頃に戻りましょう、なんて…そんな器用なことできない。


「高校、どー?」


「どー?って言われても…」


質問がアバウト過ぎる。


「やっぱそっちはレベル高いの?

わざわざ離れたとこ行ってるじゃん。」


「まぁ、そうだね。

でも結局、そんなに変わんないのかもよ。」


一応、中学のころ成績上位者だった私。


頭のいい進学校に入学して、今の日々を過ごしてる。


そんな中で、私は中の下くらいまで成績は落ち込んでる。


中学とは大違い。


「ふっ…」


急に笑う弘樹。


「何??」


「いや、あなたのクセ、直ってないなぁと思ってさ。」


「クセ?」


何のことだかさっぱり。


「今、スマホ右手に持ってるでしょ?」


「…うん。」


「オレが立ってた時は左に持ってた。」


「え?」


よく見てるなぁ。


「オレが横に座ってから、右に持ち替えた。」


…ウソ、無意識。


「まぁ、故意じゃないとは思うけど。」


「うん、気づいてなかった。」


…それで?


「オレたち、時間があった時は一緒に帰ってたよね。」


…はぁ?


どんな文脈からその話…?


過去の話は、あんまりしたくないんだけどな。


「そんときね、あなた、手さげカバンをオレのいる方に持つの。」


「え。」


「だからさー、手つなごうと思ってもつなげなかったんだよねー。」


…そうだったんだ。


「いや、それは…ごめん。」


ぜんぜん気にしてなかった。


むしろ、弘樹が私と手を繋ぎたいなんて思ってるなんて知らなかった。


「あとさ〜2人で歩いてたらオレの知り合いに見られてさぁ〜…」


そう笑って話を続ける。


…次からは、ちゃんと気をつけよう。


教えてくれてありがとう。


でもこれ以上話すことはない。


きっと何十年後に思い出したら、甘酸っぱいいい思い出なんだと思う。


でも今の私としては弘樹との過去は苦い思い出に過ぎないの。


だから、これ以上過去の記憶を蘇らせないで…。


頭の痛みがさっきよりも激しくなる。


「ー運転を再開いたします。」


放送が流れて、電車が動き出す。


やっとか…。


あとは弘樹の独り話をただ聞いていればよかった。


目に見えて耳を塞ぐことはしないけど、話を聞いているようでずっと聞いていなかった。


なんで私たちの過去を今さら話さなきゃいけないの?


もう私は前に進んでる。


弘樹だって、私のことをまだ想っているわけが無い。


彼女だっていた事だし。


だったらもう、話すのやめようよ。


いつまでも止まっていられない。


また弘樹を好きだった気持ちがぶり返さないうちに。


…いや、弘樹に恋愛感情はもう抱かないかな。


もしドキッとした事があれば、きっとそれは恋愛感情だと勘違いされた動揺。


そうやってどうでもいいことを考えているうちに、私の降りる駅についた。


「じゃあね。」


もう会うことはないとは思う。


もともと、弘樹は電車通学じゃないんだから。


外ではまだ雨がひどく降っている。


…頭が痛いのはこの気圧の変化のせい。


変なことを考えすぎたせい。


もう、雨の日は嫌な日。

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