「あなたーっ、新曲どー?」
部室でギターの手入れをしていたところ、美織がドラムスティックでリズムを刻みながら言った。
「あー、それがねぇ…一応出来て入るんだけど、もう少し手直ししたいっていうか…。」
「そっかそっか。
今回のテーマは…『片想い』だっけ?」
「うんっ、前回失恋ソング作ったから、片想い、いいかなーと思って。」
「なに、最近恋愛系じゃーんっ、恋でもしたー?」
にやっと笑みを浮かべる美織。
「違うよーっ。
なんとなくそーゆーの書きたい気分なのーっ。」
私たちのバンドは自ら作詞作曲して、オリジナルソングをいろんな所で披露してる。
文化祭とか、地域のイベントとか。
私は作詞担当、作曲は美織。
時々交代する時もあるけど。
1年の最初はオリジナルじゃなかった。
だけど私が夏休みに部室でなんとなーく思い付きで口ずさみながらギター弾いてたら、みんなに「何その曲!?」って言われて…
割と好評だった、私の初歌詞。
それから自分たちで作るのいいねってなって、今では当たり前のように沢山作ってきた。
最初は作曲もやってたんだけど、あるとき美織がやってみたいって言ったから、任せたらそれがまた良くて…。
そして、今のポジションに落ち着いた。
割と4人の中で役割分担が決まってて。
仁菜はどのイベントに出演するとか、交渉とか、そういうものを一切任せっぱなし。
亜莉沙は主に部費の管理。
今月はスタジオ借りるお金があるとかアンプ買えるとか…やっぱりしっかり者だからね。
「んまぁ、とりあえず、アメリカ行く前には仕上げてね?
あなたがいない間に曲付けとくから。」
「あ。」
やば、すっかり忘れてた…!
「そっかぁ、私、来週アメリカ行くんだった!!」
一週間ホームステイプログラムに応募したら通ったんだよね〜…。
「忘れてたの?
呑気だなぁ。
行くのは金曜だよね?
まだあと10日くらいあるから大丈夫でしょー。」
「うん、なんとか頑張るね。
って、休んでる間授業やばいっ!
数学とか…戻ってきたら絶対何にもわかんない…。」
一気に不安になってきた…。
「大丈夫、大丈夫。
あなたならなんとかなる!」
「何を根拠に…。」
「あ、お土産待ってるねーっ」
「話変わるの早っ…。」
もぉー、美織ってば、適当なんだからっ!
「おーつかれっ!」
ガチャッとドアを開けて亜莉沙と仁菜が入って来た。
「おつかれーっ、どこ行ってたの?」
「あぁ、ハロウィンパーティが駅前の広場であるらしいんだよね。
そこでステージ発表の場があるから出てみないかって、さとちゃんが。」
「そっか、今月末にはハロウィンか。
さとちゃんから言ってきたの、珍しーねっ。」
さとちゃん、っていうのは顧問の先生。
里見真奈(さとみまな)先生、音楽家の先生で若いから話しやすい。
「今回は吹部も出るんだってー。
だから先生同士でそーゆー話があったらしいよ。」
「なるほどね。」
うわぁ、こりゃ楽しみな事いっぱいだぁ!!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。