“恋って何?”
私のその問いに二人は唖然とした表情を見せた。
「…えっとぉ…誰か一人の人を見てたら胸がぎゅーって苦しくて…」
「気づくとその人ばっかり目で追っててー」
「そのひとが女の子といるとこみたらもやっとしちゃったり〜」
「話してると顔が熱くなったり緊張してうまく話せなかったり…」
二人が交互に説明してくれる。
「…なるほど。」
胸がぎゅーって苦しくなる?
それはなにか重い病気?
気がつくとその人ばっかり目で追ってる?
そんなこと、今まで一回もなかったなぁ…。
女の子と話してるともやっとする?
んー…
中学のときのクラスの男の子を思い浮かべては当てはまらず除外していく。
…ないな。
話してると顔が熱くなったり緊張してうまく話せなかったり…あ、先生と話すのは緊張するかも。
でも顔が熱くなることはないからなぁ…。
「あ、今朝一緒に登校してきた人は?」
「悠貴のこと?」
「名前は分かんないけど…。
その人のことはどう思ってる?」
悠貴のことかぁ…。
「んー、昔からずっと一緒にいたからねぇ…
なんか、家族みたいな感じかな。」
「幼なじみ!
イイじゃんイイじゃん!」
「恋心が芽生えちゃったり!?」
ええっ。
「それはないよーっ。」
「分かんないよー?
一緒にしてドキドキすることとか無い??」
んー…ドキドキ、ねぇ。
「あ!」
私は手を叩く。
「お!ある!?」
「前にね!
家に遊びに来た時に、悠貴夜ご飯も一緒に食べてくことになったんだけど…」
「うんうんっ」
二人は目を輝かせながらそれでそれでと急かすように私を見る。
「食器を運んでる時にね、悠貴ってば滑りそうになって…食器落としそうになっちゃったの!
あれはほんとにドキドキしたよーっ…」
今思い出してもヒヤヒヤする。
二人はガクっと肩を落として声を合わせて言った。
「「それはちがーう!」」
「えっ!?」
「え、じゃないよ!
それは恋とは違うドキドキ!
どちらかと言うとハラハラでしょ!」
…んまぁ、そー言われればそうかも。
「本当に恋したことないんだね〜…。」
「こりゃ彼氏ができるのも時間かかるわ。」
「えーっ!!」
そんなぁ…。
「彼氏欲しいよー!
作り方を教えてくださいませ、七海さまぁっ!」
私は目の前で手を合わせ拝む。
「うむ、仕方ない。
伝授してやろう。」
七海もテンションを合わせて返してくれる。
「師匠っ!」
「まずは、その悠貴くんを意識してみなさい。」
「意識してみる?」
いまいちピンと来ない。
「そう、悠貴くんを恋愛対象として見てみるの!
悠貴くんのいいとこってこんな所だな〜とか授業中の様子とか…」
「おぉ!なるほどぉー!」
よしっ、頑張ってみるぞっ!
「ん、でもそれって悠貴のこと好きになるってことだよね?」
「まぁ、そうなるね。」
「ええー!やだ!」
私は真っ向から全否定。
「何でよ〜いいじゃん!」
「だってなんか、悠貴は違うもん!」
だってだって、今までずっと家族みたいに接してきた。
急に好きな人だって思えないよ…。
「んー…じゃあ、あなたの斜め前の席の野崎虹太(のざき こうた)くんは?」
「うん、知らない人の方がいい!」
改めて、頑張るぞーっ!!!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!