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第3話

完結
67
2017/10/07 05:01
ーーー待ち合わせ15分前。蓮人は逸る気持ちを抑えながらある少女を待っていた。こんなに緊張するのはいつぶりだ。

せめて手だけは震えないでと願う10分前。

遠くから歩く懐かしい面影が近付くとふと大人びた姿に変わってここが現実だと思い出す。

「いつもより早いね。」

からかわれるように言われながら、

「うるせぇ。」

いつからこんなに大人になったんだと心の中で毒づく。

だめ、可愛すぎ。




ーーーいつもより気分を上げて、待ち合わせには早く来てやろうと高を括っていたのに何でいるんだなんて思いながら、待っててくれるのが嬉しくてたまらない。いつもより早いねって言ったら、うるせぇって言われた。
いつもよりかっこよくて、心臓が飛び跳ねそうだ。

でも、これが高校生同士の最後の祭りだなと思うと切なくて胸が痛む。


ーーー綿あめはベタベタするから嫌い。りんご飴って持つと頭でっかちで重いよね。食べたことないけど。あ、かき氷食べて舌の色変えようよーーー

いつもみたいに優紀に振り回されながらあっちこっち行かれて、それで食べるのは結局俺で。これって意味あんのかと思いながらも楽しまずにはいられない。

でももうすぐ祭りの…夏の終わりが来る。

さて、

「…そろそろ行くか、花火。」

祭りの日、2人で来る時は決まって花火を見る。祭りの会場から少し離れた川沿いの芝生に直に座って花火を見るのだ。そこから見る花火は本当に大きくて、心臓まで響くような爆音で、散る瞬間まで鮮明に見えて…。

優紀に想いを馳せてからの花火は切なかった。それが季節のせいなのかどうかなんて分からなかったけど、夏の風物詩はいつも切ないんだ。

だから、今、この瞬間でさえも加速していく蓮人の想いを告げるには絶好のシチュエーションだろう。

「いつもんとこで見ようぜ。」

「うん!」


ーーー毎回の祭りに思うのは、花火を早く見たいと思う気持ちと、どうかこの時間が終わらないでという気持ち。
似て非なる気持ちが優紀の胸を締め付けるのは今に始まったことではない。

ずっと言いたくて、でも壊れてしまうことに怖気づいて…。
今年こそはそんな感情の輪廻に終止符が打たれてしまうのだろうか。
今日の蓮人は何だかいつもと違うのだ。

だから、きっと…。

いっそこの場に及んで告げてしまおうかと何度迷ったのだろう。迷路のような考えに諦めなどつくものか。否、これはとてつもなく難題で避けたくなるように苦しいのだ。

私の青春は全て君のものだと、蓮人にただ一言いえばいいのに。それが、こんなにも苦しい。

ーーーもうすぐ、花火が打ち上がる。



「今年もおっきい花火だねー」

「そうだなー」

「…」

「…」


ーーー言葉なんて交わさなくても、花火は綺麗なのだから見入ってしまえばいい。そう思う時に2人はどこか繋がっているのかなと蓮人は思う。

だから本当は分かっていた。

きっと想いが遮られることは無いだろうと。結果がどうであれ、優紀はきっとずっと変わらず接してくれるのだろう。
ほんと、意気地無しだな、俺。

「なぁ、優紀。」

「…んー?」

花火に見入って間延びした返事をする優紀。なのに横顔は可憐で。
蓮人の中の優紀は幼くて、事実今も蓮人より幼いのは当たり前で、でもそういう事じゃなくて、いつも妹みたいな存在だった。

だけど、違う。

傍に居てくれてたのは、奇跡だってことを忘れるな。奇跡にしたままじゃ、だめなんだ。ずっと、傍に居てよ。

俺は、お前をーー



「…好きだ。」





ずっと、好きなんだよ。






ーーー世界が、時間が止まったかのようだ。


ーー好きだ。

花火に見とれる中、右から微かに聞こえた、幼い頃よりはるかに低くなった、懐かしいような、それでいて新鮮でドキリとする声を拾って優紀は目を見開く。

「え、と……。」

驚きのあまりすぐに言葉を発せられない。それどころか鳴り止まない心臓の音が頭に響いて、動揺を拡げさせていく。

「突然でごめん、タイミングとか、分かんなくて…。でも、今日言おうって決めてたんだ。俺、お前の…優紀のことが、好きだ。」

ーー付き合って下さい。



優紀の気持ちが追いつかずに蓮人が言った言葉に心臓が跳ね上がる。
そして、溢れ出すのは言葉ではなく涙。

「ご、ごめん…。あの、嬉しくて…っ」

言いたい言葉はもう寸前まで出ているのに、嗚咽と緊張でなかなか出てこない。

「返事、聞かせて。」

背中をさすりながら微笑んで優しく語りかける蓮人の声に、ほんの少しの勇気と安心をもらう。
今なら声に出せそうだ。

ーー私も、蓮人のこと、大好きだよ。


ーーー重ならない日々に想いは加速して。
ーー遠い世界だと思っていた。まるで曇天のように偏頭痛が響くような苦しくて切ない日々。刹那、それは風が吹き抜けるように澄み渡った空へと変わる。

2人の想いが交わった今、例えるならサイダー、甘ったるくてでも爽やかで、弾けるような軽快さに、2人は笑う。


蒼い澄み渡った空にも負けずに、今しかない「今」を全力で駆け抜けて行こうーーーーー


▷完結◁♡*。゚

ーーー待ち合わせ15分前。蓮人は逸る気持ちを抑えながらある少女を待っていた。こんなに緊張するのはいつぶりだ。
せめて手だけは震えないでと願う10分前。

遠くから歩く懐かしい面影が近付くとふと大人びた姿に変わってここが現実だと思い出す。

「いつもより早いね。」

からかわれるように言われながら、

「うるせぇ。」

いつからこんなに大人になったんだと心の中で毒づく。

だめ、可愛すぎ。




ーーーいつもより気分を上げて、待ち合わせには早く来てやろうと高を括っていたのに、何でいるんだなんて思いながら、待っててくれるのが嬉しくてたまらない。
いつもより早いねって言ったら、うるせぇって言われた。
いつもよりかっよくて、心臓が飛び跳ねそうだ。

でも、これが高校生同士の最後の祭りだなと思うと切なくて胸が痛む。


ーーー綿あめはベタベタするから嫌い。りんご飴って持つと頭でっかちで重いよね。食べたことないけど。あ、かき氷食べて舌の色変えようよーーー

いつもみたいに優紀に振り回されながらあっちこっち行かれて、それで食べるのは結局俺で。これって意味あんのかと思いながらも楽しまずにはいられない。

でももうすぐ祭りが…夏の終わりが来る。

さて、

「…そろそろ行くか、花火。」

祭りの日、2人で来る時は決まって花火を見る。祭りの会場から少し離れた川沿いの芝生に直に座って花火を見るのだ。そこから見る花火は本当に大きくて、心臓まで響くような爆音で、散る瞬間まで鮮明に見えて…。

優紀に想いを馳せてからの花火は切なかった。それが季節のせいなのかどうかなんて分からなかったけど、夏の風物詩はいつも切ないんだ。

だから、今、この瞬間でさえも加速していく蓮人の想いを告げるには絶好のシチュエーションだろう。

「いつもんとこで見ようぜ。」

「うん!」


ーーー毎回の祭りに思うのは、花火を早く見たいと思う気持ちと、どうかこの時間が終わらないでという気持ち。
似て非なる気持ちが優紀の胸を締め付けるのは今に始まったことではない。

ずっと言いたくて、でも壊れてしまうことに怖気づいて…。
今年こそはそんな感情の輪廻に終止符が打たれてしまうのだろうか。
今日の蓮人は何だかいつもと違うのだ。

だから、きっと…。

いっそこの場に及んで告げてしまおうかと何度迷ったのだろう。迷路のような考えに諦めなどつくものか。否、これはとてつもなく難題で避けたくなるように苦しいのだ。

私の青春は全て貴方のものだと、蓮人にただ一言いえばいいのに。それが、こんなにも苦しい。

ーーーもうすぐ、花火が打ち上がる。



「今年もおっきい花火だねー」

「そうだなー」

「…」

「…」


ーーー言葉なんて交わさなくても、花火は綺麗なのだから見入ってしまえばいい。そう思う時に2人はどこか繋がっているのかなと蓮人は思う。

だから本当は分かっていた。

きっと想いが遮られることは無いだろうと。結果がどうであれ、優紀はきっとずっと変わらず接してくれるのだろう。
ほんと、意気地無しだな、俺。

「なぁ、優紀。」

「…んー?」

花火に見入って間延びした返事をする優紀。なのに横顔は可憐で。
蓮人の中の優紀は幼くて、事実今も蓮人より幼いのは当たり前で、でもそういう事じゃなくて、いつも妹みたいな存在だった。

だけど、違う。

傍に居てくれてたのは、奇跡だってことを忘れるな。奇跡にしたままじゃ、だめなんだ。ずっと、傍に居てよ。

俺は、お前をーー

「…好きだ。」

ずっと、好きなんだよ。


ーーー世界が、時間が止まったかのようだ。

ーー好きだ。

花火に見とれる中、右から微かに聞こえた、幼い頃よりはるかに低くなった、懐かしいような、それでいて新鮮でドキリとする声を拾って優紀は目を見開く。

「え、と……。」

驚きのあまりすぐに言葉を発せられない。それどころか鳴り止まない心臓の音が頭に響いて、動揺を拡げさせていく。

「突然でごめん、タイミングとか、分かんなくて…。でも、今日言おうって決めてたんだ。俺、お前の…優紀のことが、好きだ。」

ーー付き合って下さい。

優紀の気持ちが追いつかずに蓮人が言った言葉に心臓が跳ね上がる。
そして、溢れ出すのは言葉ではなく涙。

「ご、ごめん…。あの、嬉しくて…っ」

言いたい言葉はもう寸前まで出ているのに、嗚咽と緊張でなかなか出てこない。

「返事、聞かせて?」

背中をさすりながら微笑んで優しく語りかける蓮人の声に、ほんの少しの勇気と安心をもらう。
今なら声に出せそうだ。

ーー私も、蓮人のこと、大好きだよ。


ーーー重ならない日々に想いは加速して。
ーー遠い世界だと思っていた。まるで曇天のように偏頭痛が響くような苦しくて切ない日々。刹那、それは風が吹き抜けるように澄み渡った空へと変わる。

2人の想いが交わった今、例えるならサイダー、甘ったるくてでも爽やかで、弾けるような軽快さに、2人は笑う。


蒼い澄み渡った空にも負けずに、今しかない「今」を全力で駆け抜けて行こうーーーーー



END



拙い文章ですが最後まで見ていただきありがとうございます。
閲覧ありがとうございましたm(_ _)m
楽しんでくれていたら嬉しいです。

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