第5話

転入生2
748
2017/10/06 07:11
一ノ瀬だ。とわかった瞬間、私は思わず立ち上がってしまった。

ガタッという椅子から立ち上がった音が教室に響く。

声はなんとか止めたが、体は勝手に動いていた。

「あなた。急にどうした?」

とヨッシーが驚いたように言った。

「あ…いや、なんでもないです。」

なんとか声を出して答えた。





なぜ葵のお母さんが一ノ瀬という苗字だった事を知っているかというと、

私のお母さんが「いっちゃん元気にしてるかなー?」とたまに口にする。

私はそれが誰だか分からずにいた。

ところがある日、「いっちゃん元気にしてるかなー?」といった後に、

「あなたは会いたくないのー?」と言ってきた。

「それ誰?」と聞くと、キョトンとした顔をした後、あっ。という顔をした。

「お隣に住んでた葵くんよ。葵くんのお母さんとお母さんは、高校の同級生でね、

お母さんの旧姓が、一ノ瀬だったから、いっちゃんってあだ名だったのよ」

と話してくれたことがあった。





一ノ瀬…。

一ノ瀬 葵…。

確かな確信は無い。

けど、もしかしたら、という希望を捨てきれない。


でも、私は見逃さなかった。

私が立ち上がった時、少し驚いたような顔をした。

もしかしたらそれは、ただ単に驚いただけなのかも知れない。

けど…

ヨッシーが私の名前を呼んだ時。

「えっ、」と小さい声を漏らしていた。

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