第17話

スタートライン
615
2017/10/10 08:15
私は話の内容が信じられなくて、ただただ聞いているだけだった。

「幸い、命に別条は無かったんだけど…

事故の衝撃で、葵は…記憶の一部を失ったの。」


「え…。もし…かして…」




「そう…。あなたちゃんの記憶が綺麗さっぱり無くなっていたの。」



信じられない。お母さんは引越しなんて言ってたけど…それも嘘?

「お医者さんはしばらくしたら戻るかもしれない。って言ってた。

けど、1週間、2週間、たっても戻らなかった。」

「病院がたまたま実家の近くだったからそこで寝泊まりしていて、

あなたちゃんに会うことは無かったの。だから…あなたちゃんのお母さんに協力してもらって

引越した。と言うことにしてもらったの」

「今まで黙っていてごめんなさい」

と深く頭を下げられた。

「い、いえ。もし、当時の私にそんな事言われたら、本当に立ち直れなかったと思いますし、

それに、今こうして教えていただいてありがとうございます。」

本当は何を言えばいいのか、頭が真っ白になった。

でも、意外にスラスラと言えた。

「ありがとう、だなんて。そんな事…」


「あの、実は今、葵と同じクラスなんです。」

というと、驚きながらも穏やかな表情をしていた。

「しかも、隣の席で。」

すると、

「そう…。あなたちゃんはどう思う?葵と同じクラスって事。」

と問いかけてきた。

「最初に見た時、どこかで会ったことがある気がする。とか、

自己紹介の時、葵って言ってて、それに、おばさんの旧姓だった事も思い出して…

もう、葵だ。って思いました…」


「でも…葵が私の事を覚えていないとしても、私は今日一日、葵と居られて楽しかったです!」


「あなたちゃん。」

「これからも葵の事。よろしくお願いします。」

とまた、深く頭を下げられた。

でも、その表情は笑顔だった。

「はい!こちらこそ!」



全て知った今。

またここから歩き始める。

ここが、スタートラインだ。

プリ小説オーディオドラマ