第7話

【桂】ロアニの家
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2017/10/07 05:09
小さいの頃近くに廃墟の家があった。
そこは川沿いにあって井戸もある。
田舎だから灯りも少なく、夜になるととても不気味だった。
必然的にそこは幽霊が出る家として松下村塾では有名だった。
先生からは危ない(倒壊のおそれもあるので)から立ち入り禁止と言われていた。

俺もあの頃は好奇心旺盛だったから行ってみたい気持ちはあったんだが、行ったのがバレて怒られるのも嫌だったから、行くことはなかった。
それでも行く奴はいるわけで、
やれ「幽霊を見た」「井戸から声がした」と
よくある怖い話を得意気に話していた。

そんな中、探検に行ったあるグループが
その廃墟を「ロアニの家」と呼び始めた。
その名称は塾中に広まり、俺達はみなそう呼んでいた。
しかし、誰に聞いても名前の由来はわからない。
結局はロアニさんが住んでいた家というよくわからない結論にたどり着いた。

それからすぐに廃墟は取り壊された。
理由がなんなのかはわからない。
その後は「ロアニの家」の話は消滅して行った。
小学生だから、すぐ忘れる。

数ヶ月後、食卓を囲んでいると高杉が
「そういやあそこの廃墟取り壊されたんだってな」
「もう三ヶ月くらい前だぞ。」
「そうか、最近あの辺通ってなかったからなぁ。そういやヅラ、あそこなんて呼ばれてたか知ってるか?」
「ヅラじゃない、桂だ。名前があるのか?俺達は勝手に”ロアニの家”と呼んでいたが。」
「なるほどな。俺らはクチアニの家って聞いたぞ。」
なんでも家の一番おくの部屋に大きな赤い字でクチアニと書かれているらしい。

「ロアニにクチアニか、なるほど。見つけたのが馬鹿で良かったかもな」
そう言って高杉は笑っていた。
その後言葉の意味が分かって、行かなくて良かったと感じた。
まぁ結局その廃墟が本当に曰く付きだったかを調べる術はもうないがな。

口兄→口+兄=呪

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