第13話

【桂】お婆は幽霊が見える
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2017/10/09 04:50
俺のお婆の話だ。

お婆は不思議な人で、昔から俺だけに、
「お婆は幽霊が見える。誰にも言っちゃいかんよ。」と言っていた。
実際に俺が霊体験をしたわけではないが、お婆の話は印象に残っている。

お婆が幽霊が見えるようになったのは15歳のときだったらしい。
お婆は空襲のあとに見えるようになったって言っていた。
空襲が終わった後、まわりは一面の焼け野原。
お婆の両親も亡くなって、これからどうしようと途方にくれていたとき、一人の大怪我をした男を見つけらしい。

急いで近づいたが、どう考えても生きられるような傷ではなかった。
両腕は吹っ飛んで脳がはみ出ているのに、
「痛い、痛いー、お父さーん、お母さーん」ってずっと泣き叫んでるんだと。
お婆は体をつかもうとするが何故かつかめない。話しかけても反応しない。
そのうちお婆も怖くなって、走って逃げたらしい。

その日からお婆は幽霊が見え始めたって言ってた。
外を見れば、体中から血を噴き出して叫んでのた打ち回っる人や、焼け爛れた体でひたすら助けを求める人、頭が無いのに動いてる人。
最初は地獄だったと言っていた。
空襲が終わった後、どうにか親戚に身を寄せることが決まっても、幽霊は見え続けたらしい。

でも、それは絶対に言ってはいけなかった。
幽霊が見えるなどと言えば速攻で頭がおかしいと言われるような時代だったらしい。
でもお婆もなかなか強い女で、段々幽霊も見慣れてきたらしい。
足が無かろうが頭が吹っ飛んでいようが、あまり怖くなくなったんだと。

お婆いわく、幽霊ってのは知らん振りすればあまり関わってこないらしい。
下手に近づくほうが危ないんだと、初めて見た頭が吹っ飛んでいる人にも相当長い間付きまとわれたらしい。

そんなある日、大分町並みもまともになってきたころ、お婆は知り合いの男の子を見つけたらしい。
その子は近所に住んでいた子で、よく遊んであげていた。でも、本当は死んでるはずの男の子だった。
両腕がなくなった痛々しい姿で、
お婆を見ると「お姉ちゃーん!!」と大きな声で叫んだ後、にっこり笑って呼んでいたらしい。

でも、幽霊の怖さを知り始めたお婆は、知らん振りし続けたんだと。
それからそこを通るたび、返事をする事のないお婆にむかって「お姉ちゃーん」と叫び続けた。

「幽霊が見えるようになって随分たつけど、あの子はまだあそこにいるんだろうね」
と、お婆はさびしそうに俺に言った。

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