第16話

【高杉】わらび取り
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2017/10/13 13:09
俺はガキの頃、近くの山にわらびを取りに行った。 
小さい頃は先生と一緒に行ったりしていた。
夏休みは先生と一緒に山に行った。
その山には昔から神隠しにあうって言い伝えがあった。
そんな山に入るのは、当時の俺にとっては怖いよりもわくわくするものだった。

先生といつものように(といっても年に1,2回くらいしか俺は行かないが)奥に奥にわらびを求めて入って行った。
先生は慣れた様子でどんどん奥に入って行った。
俺はだんだん怖くなってきた。去年はこんなに奥に行ったか?
俺は先生に、まだ奥に行くのか?と尋ねた。先生は大丈夫ですとだけ言ってきた。
そのときは何だかいつもより素っ気ない気がした。

俺は少し不安になりながらも先生についていった。
けれど、いくら歩いても先生は止まる様子がない。
俺もだんだん疲れてきて先生から離れそうになって、慌てて追いかけて、また疲れて離れてを繰り返していた。
とにかく先生からはぐれないことで必死だった。

気が付くと、先生も俺も崖の上に立っていた。
先生は崖に近づいていく。
俺は我に帰って必死で先生を止めようとした。
だが、先生は尋常じゃねぇ力で俺を振り払おうとした。

俺はとっさに水筒の冷たい茶を、先生の頭から思いきり掛けた。
そうしたら、先生はハッとしたような顔で俺を見た。
先生はなぜここにいるのか分からないし、初めてきたところだとも言った。

正気に戻った先生とともに俺はあたりを歩きまわって、なんとか先生が知っている場所まで行くことができた。
俺たちはそのままわらびは取らず、松下村塾に帰った。
帰るなり、ヅラにかなりの剣幕で怒られて、そのあとすげぇ泣かれた。

俺たちが山に入ってから丸一日が経っていた。
けれど、俺も先生もせいぜい数時間程度だと思っていたから、それを聞いてすごく驚いた。
ヅラは俺たちがいなくなってる間、松下村塾の奴らと共に、山とその周辺を探し回っていた。
どこにもいなくて警察に行こうとしていたところに、俺と先生が帰ってきたのだった。

もしかしたら俺と先生は神隠しにあっていたのかもしれない。

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