キュッキュッ…
『リバウンド!!』
『速攻!』
バッシュが擦れる音と共に選手達の怒号が飛び交う体育館。
私は男子バスケ部のマネージャー…なんてそんな可愛らしいものではなくて、その隣のコートの女子バスケ部の一選手だ。
『シュート!』
そう言われたとある男子生徒はボールを貰うなり、きれいなフォームでボールを手から離した。
吸い込まれるように、ボールは弧を描いてリングに当たることもなく…
スパッ
笑顔で喜ぶ彼。
そんな彼を見て、私も少し嬉しくなる。
私は、彼のことが好きだ。
でも、彼は後輩だし、今はバスケしか考えてなさそうだからこの気持ちはまだしまってある。
でも、いつかは…
ってダメだダメだ。自分のゲームに集中しなきゃ
と、ドリブルをつきながら話しかけてくる彼女。
一年生の頃からよくこうやって突っかかってくるけど、なんでだろ?
私は彼女が苦手だ。
キュッ!
ドリブルで抜いてシュートに行く気だ!
しかし、私の判断が一瞬遅れ、慌ててディフェンスをしようと足を出すと
ドンっ!
彼女はわざと私にぶつかってきた。
いったいな!と思っていたその拍子に、
グキっ
と自分の足から鈍い音がした。
あ、やばいと思った頃にはもう手遅れで。
ドサッと倒れ込んでしまった。
いった〜。
ピ────!
『オフェンス!チャージング!』
幸い、彼女のファールとなったが、私は立ち上がれない。
慌てて友達が駆け寄ってくる。
試合は一時中断となってしまい、女子はともかく、ゲームが終わっている男子までざわつき始めてしまった。
私は元気な素振りを見せるが、ウソです。
めっちゃ痛いー!
早く立ってコートから出たいのに!
だからなんでよ!
そう言うと同時に私を抱えあげる。
こ、これは世にいうお姫様抱っこというやつ?!
彼女は少し焦ったように彼に話しかける。私を睨みながら。
あ、彼女、好きなんだ。こいつのこと
私はすぐに分かった。
でも、彼女の言葉は無視して、彼は男子の監督に
彼がこんな行動をとったことに驚きが隠せないのか監督は『お、おぉ…』と気のない返事をした。
~保健室~
そう言いながらも湿布を貼ってくれる。
こういう優しいとこが好きなんだよなぁ。
ちょっといたずらっぽく笑う彼にまたドキッとしてしまう。
照れてしまい、素直になれない。
こういう時、君だよ。とか言えたらいいのにな…
ビックリしたと同時に不安が押し寄せる。
もし、あの彼女とかだったらどうしよう…
まっすぐにみつめてくる。
目が、そらせない。
素直になるなら、今だと思った
終わりがけが小声になってしまったけど言えた。
彼がどんな顔をしているのか分からない。怖い。
私は言葉を詰まらせた。
顔をあげると彼は片手で顔を隠しているが、
耳まで真っ赤なのがすぐに分かった。
質問を言い切ることができなかった。
その前に彼の唇に塞がれたから。
彼はキスを終えると、ぼそぼそと話す。
私は、気づいた。
しまった!あの日か。
すっごい恥ずかしいんですけど!!
あの日はいつもスタメンだった自分が調子に乗ってたことに腹が立って、悔しくて…
でも、バスケをまた一から見直すいい機会だと思った。
それまで何となくやっていた自分が情けなくなってしまった。
全力でバスケを頑張る理由ができた。
私はもう一つバスケを頑張っていこうと思える理由ができた。
あんたがいるから、頑張れる
お互いに理解し合える
ありがとう。
ふざけて返事をすると、
…チュッ。
今、ほっぺにキス…
彼の顔はゆでダコのように真っ赤だ。
彼は恥ずかしくなったのかダッシュで保健室から出ていった。
ちょっとだけ、早く治りそうな気がした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。