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第1話

乙女の場合
90
2017/10/02 14:36
翔真
『あなた、こんばんは。元気?』
ツイッターを開くと約一か月ぶりに翔真からリプライが来ていた。リプが来た時間を見ると、ついさっきだった。私はあわてて返信した。
あなた

『翔真、こんばんは。元気だよ』

少しそわそわしながら待っていると、彼からの返信が来たことを告げる通知音が鳴った。
翔真
『そっか、良かった。ごめんね、忙しくて来られなくて…。忘れたわけじゃないからね』
『あなた』というのは私のネットの世界での名前。翔真だけが呼び捨て。私は結構、この呼び名を気に入っている。彼だけが呼んでくれるから。
 彼の『翔真』というのは本名じゃない。彼は、国民的人気俳優・鹿原翔真のなりきりだから。なりきりは簡単に言うと、好きな芸能人の名前を借りてインターネット内で会話したりする人達のこと。なりすましとは違って害はないし、礼儀正しい人が多い。
 私が彼と出逢ったのは、私が高校生の時。入学してツイッターを始めてすぐくらいだったと思う。ツイッターの世界は現実の世界よりも時間の進む速度が速い。だからなのか、敬語からため口でお互いに話すようになった。
 彼の言葉はすごく心地よくて、『安心する場所』になった。彼はそんな事、知らないけど。
 お互いに、顔も本名も誕生日も何も知らない。だけど、彼の優しさは沢山知っている。私が一番つらかった時、傍にいてくれた。私の『傍にいてほしい。傍にいたい』っていうワガママを叶えたいと言ってくれた。どんな彼でも、私は翔真のことが好き。

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