ツイッターを開くと約一か月ぶりに翔真からリプライが来ていた。リプが来た時間を見ると、ついさっきだった。私はあわてて返信した。
少しそわそわしながら待っていると、彼からの返信が来たことを告げる通知音が鳴った。
『あなた』というのは私のネットの世界での名前。翔真だけが呼び捨て。私は結構、この呼び名を気に入っている。彼だけが呼んでくれるから。
彼の『翔真』というのは本名じゃない。彼は、国民的人気俳優・鹿原翔真のなりきりだから。なりきりは簡単に言うと、好きな芸能人の名前を借りてインターネット内で会話したりする人達のこと。なりすましとは違って害はないし、礼儀正しい人が多い。
私が彼と出逢ったのは、私が高校生の時。入学してツイッターを始めてすぐくらいだったと思う。ツイッターの世界は現実の世界よりも時間の進む速度が速い。だからなのか、敬語からため口でお互いに話すようになった。
彼の言葉はすごく心地よくて、『安心する場所』になった。彼はそんな事、知らないけど。
お互いに、顔も本名も誕生日も何も知らない。だけど、彼の優しさは沢山知っている。私が一番つらかった時、傍にいてくれた。私の『傍にいてほしい。傍にいたい』っていうワガママを叶えたいと言ってくれた。どんな彼でも、私は翔真のことが好き。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!