第2話

男の場合
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2017/10/07 04:18
俺は彼女に嘘をついている。彼女は俺のことを『鹿原翔真のなりきり』だと思っているけど、本当はそうじゃない。
 ある映画の役作りで始めたはずのツイッターにハマったのがきっかけだった。なりきりとしてなら、本当の自分を出せるんじゃないかと思ってわざと自分の名前にした。
 『あなた』は俺のファンってわけじゃなかったけど、いつの間にか彼女は俺の癒しになっていた。誰に対しても優しくて感受性が豊かで繊細で、純粋。普段はしっかりしているのに、たまに天然発言がさく裂する。そんなあなたのことを『妹』にしたいと思っていた人は結構多かった。彼女は気付いてないだろうけど。自分が異性に好かれるなんてありえないと思うタイプなのだ。
あなた

『翔真いないの?構ってほしいな』

疲れて帰ってきてパソコンを開いたら、あなたから可愛いリプライが来ていた。思わず頬が緩んで我ながら気持ち悪い顔になる。
翔真
『あなた、久しぶり。構ってなんて可愛いね』
あなた

『可愛いとか照れるよ』

なにこの可愛すぎる生き物。俺だけの物にしたい、なんておかしな独占欲が顔をのぞかせる。俺らは恋人なんかじゃないのに、彼女を自分のものにしたいなんて。
 あなたに伝えたいことは増えていく一方で、仕事で綺麗な人を見ても興味すら湧かない。ドラマや映画の撮影があると、ツイッターを開くことも出来なくて彼女に返信する時間もない。それでもずっと待っていてくれるから、俺はそれに甘えている。
 俺が芸能人だと知ってもきっと優しい彼女の事だから、今までと同じように接してくれるんだろう。そう思うけど、勇気がなくて言えないまま。友達以上恋人未満な関係から抜け出して、本当の恋人同士になりたい。俺は、君が好きだ。

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