第8話

ふたりで?
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2017/10/12 17:27
結局、私は蓮の家にしばらく泊まることになってしまった。
勿論幼馴染みなので、数え切れないぐらい遊びに行ったし、泊まったりもしたけど、高校生、いや、中学が別になったときから、この家には遊びに行ったことがなかった。
ちょっと緊張する。

蓮のお母さん(以下おばさん)は、気さくな人で、客がしばらく泊まるにも関わらず、嫌な顔ひとつせず、「星奈ちゃん久しぶり〜!あら!見ないうちに大きくなって〜!」と、親戚のおばさんみたいで、和んだ。
ひとしきり体育祭の話に花を咲かせ、私はお風呂に入って、蓮のお姉ちゃんの栞ちゃんの部屋のベッドに腰掛けた。
栞ちゃんは、今都市部の有名大学に入って、寮生活をしている。
私は小さいときから栞ちゃんに可愛がってもらっているので、さっき栞ちゃんから、自由に使って〜!と連絡が入った。
蓮はとなりの部屋。
今は、何してるのかな。
昔は、ラジコンとかゲーム機で溢れかえってたけど、今はどうなんだろ。

気になる。

私は、壁に耳を付けて聞き耳を立てた。

・・・・・・何も音がしない。

もしかして、寝ちゃったのかな。

いや、でも、前にも寝てるかと思ったら、高熱を出していたときがあったな。そういえば。

ちょっと心配になり、部屋を出て、
蓮の部屋のドアをノックした。
蓮?生きてる?
声がしない。
心配になってきたので、ドアを開けた。
蓮の部屋は、驚くほどシックで、落ち着いた部屋に変身していた。
昔と同じ間取りのはずなのに、広く感じた。

蓮は机に突っ伏して眠っていた。
どうやら、何かを書こうとして、睡魔が襲ったらしい。

蓮に近づく。

蓮は子どもみたいにすやすやと可愛い寝息を立てていた。
昔と変わってない。
・・・・・・可愛いなぁ。
思わずキュンときた。
どうしよ、起こすべきかな。
せっかく熟睡しているから、起こさない方が・・・。でも、風邪引いたら大変だし・・・・・・
それ以前に、この寝顔をずっと見ていたいと思っている自分がいた。

この場合、少女漫画だと、彼が寝ぼけて別の好きな女の子の名前を言って、キス・・・したりすることが多い。

まさかねぇと、大した(嘘です、正直そんなことがあったらいいなと思っている変態がここにおります。)期待を抱かず、蓮の肩を叩いた。
・・・蓮?
・・・・・・ん・・・。
あっ、よかった。ほら、蓮、こんなとこで寝てると、風邪引くよ?
でも、相当眠いのか、蓮はもぞもぞ体を動かすだけ。
これも、昔から変わってない。
不覚にもほっこりしてしまった。
しょうがないなぁ。ほら、私が手、貸してあげる。
私が手を出すと、蓮がこっちを向いた。目が合う。すると、
・・・星奈。
ガタッ!
!!!
椅子が倒れた。
なぜかというと、蓮は私の手を引いて、抱きしめたから。
・・・・・・え?え!?
心拍数が急にグンッと上がった。
私の顔がものすごく熱くなる。
反射的に離れようとすると、蓮は逆に、強く抱きしめた。
・・・え!?
ちょっと待って、きゅ、急にどうしたの!?蓮?
頭の中がハテナでいっぱいになる。
蓮はただ一言こう言った。
星奈。・・・俺は・・・。
ドサッ!
!?!?
今度は、蓮のベッドに押し倒された。
え?こんなこと、予想してないよ。


私と蓮の距離が一気に縮まった。

離れようともくろんだけど、見事に手首と足は動けないようになっていた。


蓮の誠実そうな瞳に、私が映っている。その瞳には、真剣な光が宿っていた。どうやら、私をからかっているわけじゃなさそう。

私は、もうなにも言えなかった。

声が出ない。

びっくりしすぎて、涙が滲んだ。


・・・怖い。


でも、ずっとこうしてたいって思っている自分がいた。


蓮のぬくもり、生暖かい体温、息遣い、シャンプーの匂い。すべてが新鮮で、でも、どこか懐かしくて。


私は心の底から思った。






『私、あなたが大好きです。』



言葉に出ていたらしい。
蓮は驚いた顔をしたけど、すぐに、照れくさそうにちょっと笑った。
私と蓮の距離が少しづつ縮まっていった。
それは、スローモーションだった。
・・・・・・このまましちゃうのかな。

ファーストキス。


蓮が目を閉じた。


私もぎゅっと目をつぶる。
相変わらず、動きはスローモーション。

そして・・・・・・。








「うわああああああ!!」

自分の声ではね起きた。

窓を見ると、もう朝で、電柱でスズメがちゅんちゅんと可愛い声で鳴いていた。

突然はね起きたせいなのか、頭が痛い。体が重い。気のせいか、体も熱い。


ひとつのベッドで私と寝てるのは・・・

ぬいぐるみだった。



・・・・・・・・・え?ぬいぐるみ!?



思わず目をこする。


間違いない、白いふわふわもこもこの『ふわもこちゃん』のぬいぐるみだ。


布団をめくる。


蓮はいない。


まさか化けてるんじゃないかと我ながらアホなことを考えてぬいぐるみを揺さぶる。

・・・・・・まさか。
・・・・・・夢ええええええ!?
脱力。
生まれからもう17年経つけど、人生で1番がっかりした。
いや、がっかりで済むほど単純な話じゃない。
よく見れば、ここは栞ちゃんの部屋。

蓮の部屋の要素ひとつもない。

私はより一層頭痛がした。
どこからが夢だったんだろう。

もしや、聞き耳の所から夢だったんじゃないだろうか。



そう考えると、自分の馬鹿さ加減に嫌気がさした。
いっそこのまま窓から飛び降りてしまいたい。
・・・・・・私、どんだけ蓮と一緒にいたかったんだよ。
言ってしまったら、吐き気がしてきた。
私は、『ふわもこちゃん』を抱いてうわあああとベッドでゴロゴロ転がった。


言葉では現せないこの感情。



一言で言うのであれば、






私、舞い上がってたんだなあ・・・。

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