ヒリヒリと痛む頭をさすりながら歩く。
当然のようにゼルの雷が落ちてから、
もう10分は過ぎている。
どんどん腫れてきている。
かなりのたんこぶになるだろう。
眠気も完全に吹き飛んでしまったので
何をしようかと考えているトゥルに、
聞き慣れない声が飛び込んできた。
女性の声だ。
先ほど父上が連れてこいといった例の少女に違いない。
少し見物に行こうと、王の間に向かう。
父上「お主は自分が何をしたのかさえわからぬのか?」
父上はかなり苛立っているようだ。
立派な椅子の肘掛で両手の人差し指が小刻みに動く。
どうやら、少女は知らぬ存ぜぬの一点張りらしい。
おかしい、と、トゥルは思った。
この国に王である父上を知らぬものなどいない。
そして、よくわからない服装。
少なくとも、この国のものではない。
父上「…。ゼル、とりあえず収容所に入れておけ。」
ゼル「かしこまりました。」
そそくさと兵士ふたりが少女の腕をつかみ、部屋から連れ出していく。
トゥルは、ドアの方へ近づいてくるその少女をようやくはっきりと捉えた。
紺のえりが付いた白を基調とする服の下に
これまた紺色の布を巻き付けたような格好をしている。
髪は短め、パッチリとした目、そして、
目の前によくわからない透明のものをつけている。
抵抗していた少女の目の前に付いていたよくわからない透明なものが、トゥルの前に落ちた。
自分でもなぜそうしたかは分からない。
ただ、一度も信じたことのない神がそう語りかけた気がした。
「耳と鼻のうえにひっかけろ。」
トゥルは目を見開いた。
世界が違う。
はっきりとものが見える。
父上の驚いた顔の、鼻の穴までくっきり見える。
ゼルが不思議そうな顔をしている。
兵士の剣に模様があったのか。
すべてが新鮮。圧倒的。
トゥルは、思わず少女に叫んだ。
少女は、不思議そうな顔をして、首をかしげて、言った。
なんだそれは。
トゥルの頭の中で、メガネという言葉がぐるぐる回っている。
めがね?メガネ?なんだそれは。
そんなもの聞いたことがない。
そしてトゥルは父上の方を向き、言った。
父上は少し困った顔をしたが、
すぐにゼルへ目を移した。
父上「お前が付いていれば大丈夫か?」
ゼル「当然でございます。この少女が熊10体より強ければ別ですが。」
父上「…兵士を3名つけておけ。」
ゼル「かしこまりました。」
そのまま、少女が応接間へひきずられていく。
トゥルは、その後をついていく。
久しぶりに心が踊っている。
この魔法のようなものの正体は、何なのだろう。
トゥルは、胸をときめかせて、応接間に入っていった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。