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第1話

この街の禁句
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2017/10/04 08:08
私は月曜日が嫌いだ。
朝は憂鬱になるし、仕事だってある。
新聞記者をしている私に朝は向いていなく、朝早くからスクープをとりにいくのは少し気が引けた
ハツリム
ハツリム
あれ?あなたじゃん!どうしたの?いつもはもう少し遅くにでてくるのに…
パン屋のガラス越しに飛び跳ね、勢いよくドアを開くハツリム。パン屋からでてくる彼女には、パンの香ばしい香りが染み付いていた。
あなた

まあ…ね。落し物を拾ったの。届けに行くのよ、今からね。

落し物。というのは、私達の秘密の暗号のようなものだ。意味は当然、スクープや情報。人に知られたくないようなものである。
そして、拾いに行く。というのは調べに行くということ。実際のところどうなのか調べなければ、新聞に載せることなんてできない。
ハツリムは頷き、私より喜んでくれた。
彼女が飛び跳ねる度に、質のいい髪が簡単に束ねられたツインテールが上下する。
ハツリム
ハツリム
よかったね!あなた!これでまた注目されちゃうんじゃない?
あなた

だといいんだけど…。

ハツリム
ハツリム
嬉しくないの?それとも自信がないとか?
あなた

まぁ…ね?皆は連続殺人事件より、市場の特売日の方が大事でしょ?

私が(連続殺人事件)という言葉を口にした瞬間、ハツリムの顔が曇り、朝早くから話し込んでいる御老人、ジョギング中の男性、庭の掃除をしている主婦…周りの人全員がこちらを向く。
しまった。これは禁句だった。
ハツリム
ハツリム
そ、そうだ!今美味しいパンを焼いたの!食べていかない?
ハツリムが取り繕った笑顔を浮かべ、自分の店を指さす。声に出さずに、「そっちで話そう。」と告げられた。
私はお言葉に甘え、ハツリムの後へ続き、暖かいパン屋へ入った。

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