人はあまりに驚くと、冷静になってしまうのか。そんなくだらない発見をした僕は、今起きた出来事を振り替える。
光輝が急に静かになる→しばらくして足音が聞こえなくなる→光輝が消えていた
ふむ…。解せないな。そもそも両脇を塀で囲まれた、一本道の住宅街で、隠れることのできる場所なんてないじゃないか。
うんうん唸りながら考えている僕の前を、こちらをチラリと見据えた真っ白なねこが通っていく。そして、塀の中に消えていった。
ん?消えていった?
いやいやいや、僕もとうとう暑さにやられたか。しかし、今起きたことはどうも生々しく、夢とは思えないほどハッキリしていた。もう一度、ねこが消えた場所を見てみた。どこからどう見ても、ごく普通の塀だ。
まさか、どこか別の場所へと繋がる異次元空間でもあるというのか。自分の考えに苦笑いしながら、恐る恐る手を伸ばす。
スルスルスル…
マジか。
僕の右手は、何の抵抗もなくコンクリートでできた塀に入っていった。一旦手を引く。そして、もう一度手を伸ばす。やはり、スルスルと入っていく。仮に、好奇心の塊である光輝もこの不思議な事実を体験していたとすれば、間違いなく入っていくだろう。
右を見る。左を見る。
誰もいないことを確認してから、僕はその未知の扉を開けていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!